文春オンライン

「片付けブーム」の先駆者・辰巳渚が息子に伝えたかったこと

フリーエディターの石井香奈子さんが語る辰巳渚さんとの思い出

2018/12/29

 『「捨てる!」技術』(宝島社)のミリオンセラーなどで知られる文筆家・生活哲学家の辰巳渚さんが、突然のバイク事故により52歳の若さで、帰らぬ人となったのは今年の6月26日のことだった。その早すぎる死の直前まで執筆していた遺作『あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと-ひとり暮らしの智恵と技術-』が、1月11日に文藝春秋より発売される。本書は、2017年春に大学進学のためにひとり暮らしを始めたご長男のことを思って書かれた本だった。辰巳さんの原稿執筆を手伝っていたフリーエディター・家事セラピストの石井香奈子さんに辰巳渚さんとの思い出を聞いた。

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 辰巳渚さんは2000年に出版されベストセラーとなった『「捨てる!」技術』の作者ということから、「片付けブーム」の先駆者としてのイメージが強く、また『家事塾』の創設者のため「家事をきっちりとこなす、家事にうるさい人」のように思われがちです。

 ですが、本当の辰巳渚は、おしゃれで可愛くて、そしてちょっと抜けたところもある、とても愛すべき存在です。お財布を忘れるのも日常茶飯事、講座の資料が見つからなくて大騒ぎするなど、彼女の周りはいつも笑いで溢れていました。家事についても「自分で掃除するのに、椅子を持ち上げるのは面倒だけど、お掃除ロボットのために上げるのは苦にならないのよ」などと言うお茶目なところもたくさんありました。

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狭くても快適な家と合理的な暮らし方

 私が、辰巳さんと初めてお会いしたのは、約4年前のこと。ある雑誌で『家事がラクになる家作り』をテーマに辰巳さんをご自宅で取材させてもらったときのことです。初めて訪れた浅草の家は、浅草の町屋をご主人とタイルを1枚1枚貼ってリフォームする、こだわりの家でした。狭くても快適で、そして辰巳さんのお気に入りの家具が設えられ、可愛い小物がいたるところに飾られていました。辰巳さんは「自分や家族が、いかに快適かが大切なの」と語っていました。さらに「私が快適じゃないと意味がないから、2階のトイレを潰して洗濯機置き場にしたの」。そんな合理的な暮らし方も教えてくれました。その家は、家族のための自宅であるとともに、家事塾の仕事場でもあるため、訪れるすべての人に居心地のいい家でした。

撮影:大河内禎(「おとなスタイル」掲載)浅草の仕事場兼自宅で執筆中の辰巳渚さん