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「正しくない」恋愛は「正しさ」と紙一重かもしれない

作家・島本理生が語る「恋愛という物語」

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「不倫バッシング」について思うこと

——「正しくない恋愛」と言えば不倫ですが、たびたび起こる不倫バッシングについて島本さんはどんなことを感じていますか。

島本 そうですね……、今の人たちは些細な情報だけで判断しすぎるというか、自分は判断できるという思いを強く持ちすぎなんじゃないかなって思っています。たとえば140字だけのツイートで、その人の考えを理解することは不可能だと思うんです。それなのに、なんとなく分かった気になってしまって、意に添わないと一斉に攻撃する。不倫がいい悪いとは別次元で、ちょっとこういう断罪しすぎる社会は怖いですよね。私自身も、裁判取材をしていたときに、報道で聞き知っていたはずのことが、細部まで知るとまったく印象が変わる瞬間が何度もあったので。

 

——『ファーストラヴ』のための裁判取材ですね。

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島本 そうです。裁判を傍聴しながら、私はこの事件について、報じられている断片だけで分かったような気になっていたんだって反省しました。断定する前に、いったん理解しようとしてみること。そういったことが置き去りにされている時代になってしまっているのではないかと思うんです。

言葉を使って書くということは必ず誤解される可能性を持っています

——小説を書くということは、言葉を尽くして描くことだと思います。その意味では、SNSで交わされる言葉の世界とは対極でしょうか。

島本 まったく同じものではないとは思います。でも、小説がたとえ140文字の反射神経的な表現とは別物であったとしても、言葉を使って書くということは必ず誤解される可能性を持っていますから。だから、そこはもう誤解を恐れずに受け手に託すという覚悟が大事だと思っています。その分、好きで読んでくださった人の心に深いところまで向き合うような小説を書き続けたいですね。

——秋鹿も飲み切ってしまいました。

島本 おいしかったですね。で、次はどれにしましょうか……。

 

写真=橋本篤/文藝春秋

あなたの愛人の名前は (単行本)

島本 理生(著)

集英社
2018年12月14日 発売

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