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「俺は奴隷じゃない」「洗脳された」日本語“最強”技能実習生の独白日記

2018/12/26
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手取り額は11万円ほど

<それで働けば働くほど、見えてきた闇黒がたくさんあります。給料が安いし、残業代含め手取り額は11万円ぐらいしかなかったし、毎月、会社側が日中両方の組合に管理費を支払い、実に迂回して私達から取ったお金としか思いません。そして3ヶ月ごとに必ず来る監理団体の人間は私達、弱者という研修生を守る側に立つべきなのに、会社側の言いなりになってしまいました。利益がある限りではそうするわけ。

 どういうことで誰も早く帰国することを考えるようになるのでしょう、わたしもそうでした。もうこの仕事は私の夢に叶うどころか、損するばかり、帰国することを決めたわけ。>

 ここで范が書く「会社側が日中両方の組合に管理費を支払い」とは、実際は受け入れ企業が日本側の監理団体に払っている管理費だと思われる。金額は月額3万〜6万円程度だ。一種の中間搾取であると指摘される例も多い。

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2018年4月、名古屋市内で開かれたベトナムフェスティバルに出ていた日本ベトナム友好協会愛知県連のブース内で撮影。日本に職業技術を学びに来たはずの「実習生」にこんな呼びかけがなされているのだ ©安田峰俊

 ちなみに、この監理団体は日本人経営が多いものの、なかには帰化した中国系日本人や、中国人配偶者を持つ日本人が運営している組織も少なくない。日本で成功した中国人が、技能実習生になる貧しい中国人やベトナム人を搾取する構図も存在するのだ。

 范はこれらがバカバカしくなり、また受け入れ企業の経営が傾いたこともあって、3年(現在は5年)の実習期間の満了を待たずに帰国した。彼は引き続き述べる。

染料工場で働いたが、帰国後はガードマン

<まあ、悪い事ばかりではなく、日本の素晴らしいところもたくさん見られてすごく嬉しい気持ちに、闇があればひかりもあるのです。太陽が落ちれば必ず朝になって上るのです。

 毎日辞典を覚えつ忘れつ繰り返し暗記し丸ごと覚えたあと、日本語を通じ、厳しい情報統制が行われた中国では見えないことがたくさん見られ、勉強にもなると思います。その後、帰国したとはいえ、もう一度日本に来たい気持ちもこころの中に植え付けました。 

 ふるさとに帰ってから学歴もないし、大したことスキルもない、というわけで山田電気みたいな電気屋で働いて、その後、警備員もしました。仕事の合間を縫ってネットを通して毎日4時間ほど、日本語の勉強をしたり、様々な記事を読んだあと、感想文を書いたりしてだんだん留学生としてもう一度チャレンジしたいという夢を膨らませ、留学することを決定しました。>

 技能実習制度の建前は、発展途上国の若者に「先進国」である日本の職場の技能を伝え、母国でそれを発揮してもらうことで国際貢献をする――、というものだ。ただ、岐阜県の染料工場で働いた范が帰国後はガードマンになっている例からもわかるように、圧倒的多数の実習生は、帰国後に技能を母国に伝えたりはしていない。

 日本で技能実習生に与えられる仕事には、弁当の箱詰め(どう考えても5年もかけて技能を蓄積しなくていい)や、瓦ぶき(瓦がない国でこの技能をどう活かすのか)などもある。そもそも国も雇用側も働く側も、制度に関わる全員が技能の習得など考えていないのだ。