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「フランダースの犬」の画家・ルーベンスの真骨頂はなにか?

アートな土曜日

2018/12/29
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ものの質感も、場面の勢いも巧みに表現

《クララ・セレーナ・ルー ベンスの肖像 》ペーテル ・ パウル ・ ルーベンス 1615-16 年
油彩/板で裏打ちしたカンヴァス 37.3×26.9cm
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家 コレクション ©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz- Vienna

 超エリート画家としての地位を築けた基盤には、圧倒的な画力があった。今展出品作で見ると、たとえばローマ滞在時代に描いた《キリスト哀悼》。キリストが十字架から降ろされた場面を描いた宗教画だ。絵の前に立つと、投げ出されたキリストの両脚が眼前に迫ってきて、実際にすぐそこでこの場面が展開されているんじゃないかと錯覚しそうな臨場感がある。足の甲から裏にかけては、磔にされた際に楔を打ち込まれたのであろう穴がぽっかり空いているさまがしっかり描写されている。痛切な気分に陥ってしまう。

 自身の娘を描いた《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》では、こちらは本当に目の前にいたのであろう可愛い盛りの子どもを、至近距離から描いている。おでこのあたりに優しい光を当てて思わず触りたくなるような肌の質感を描き出し、物理的な距離とともに精神的な距離の近さも表した。

《パエトンの墜落》や《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》にも、ルーベンスの美質がよく出ている。たくさんの人物を描き込む群像表現における画面構成力と、場面の意味合い、そこに流れる雰囲気や感情を表すための劇的な演出はお見事のひとこと。油彩画でこれだけ勢いのある筆致を残せる画家もまたとない。

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《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》ぺーテル・パウル・ルーベンス 1615-16 年
油彩/カンヴァス 217.8×317.3cm
ファドゥーツ/ウィーン、リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

 代表作が目白押しといった類の展示ではないものの、西洋絵画の技術的極みをよくよく体感できる格好の機会だ。

「フランダースの犬」の画家・ルーベンスの真骨頂はなにか?

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