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2019/01/02

source : 文學界 2019年1月号

genre : ニュース, 社会

「この問題は結構ヤバいな」

古市 今の政権は社会保障費の削減にはあまり関心がないでしょ。あと、それを実現しようとすると、日本医師会が反対すると思う。日本医師会は最強のロビーイング団体とも言われている。頭が良くて、お金もあって、時間まである人たちの集まりだから。日本では医療費の7割、後期高齢者の医療費なんて9割は公的負担だよね。つまり医者って後期高齢者に対しては9割公務員。しかも本当の公務員と違って、患者を治療するほど儲かる仕組み。だから、日本医師会がロビーイングを頑張るのはとても合理的だと言える。政治家や財務省も、医師会を敵に回してまで予算を圧縮しようとは思わない。そして高齢者の家族も、病院が面倒をみてくれるならいいかなと考える。こうやって、複数のアクターがそれぞれの目線で合理的な行動を取る結果、既得権益が維持されてしまう。

落合 たしかに9割公務員だと考えると面倒くさいな。でもなんとかしないと。

古市 長期的には「高齢者じゃなくて、現役世代に対する予防医療にお金を使おう」という流れになっていくはずなんだけど、目の前に高齢者がものすごい数いるわけだよね。政治家もお医者さんも、何千万人もいる高齢者を無視したくない。難しいのは、一人の悪人や、一つの欠陥がこの状況を招いているんじゃなくて、合成の誤謬の結果として社会保障の問題があること。そこに風穴を空けるのはかなり難しいよね。

落合 たしかに、そこが重要。高齢者の延命治療はある程度自費で払うことにして、在宅化をすすめれば、社会保障費をカットしつつステークホルダーを納得させることができるんじゃないか。でも、現状を変える必要がないわけですよね。この問題は結構ヤバいな。どうするんだろう?

古市 もうどうにもならないんじゃないの?

落合 いやいや、どうにもならなくはないでしょう。考えないと。背に腹はかえられないとなれば――。

古市憲寿氏(左)と落合陽一氏

国家の寿命と自分の寿命、どっちが先に尽きるか

古市 その危機感を日本全体で共有できればいいんだけどね。人口ボーナスは終わりました、信じられない勢いで少子高齢化が進んでます、認知症患者は2025年には700万人を超えます……。客観的にヤバい情報はたくさんあるけれども、背に腹はかえられないという意識は共有されていない。

落合 彼らにとってはそうかもしれないけど、僕の中には危機感はある。彼らはローカル最適に動いているけれど、それをいかにして局所解とは異なる振る舞いをしてもらうか――これは結構大きな話題だけど、どうするんだろう。俺だったらどうするだろうか。目の前にジャブジャブお金を落としてくれる人たちがいて、それによって国家の寿命が減っていることは明らかである、と。そうなると、これはもっと広い観点でロビー活動するしかないんじゃないですか?

古市 そんな団体ってあるのかな。お金と時間があって頭が良い人たちに敵うのはかなり難しいと思うけど。

落合 金がなくて時間があって頭が悪い人は世の中に一杯いますよ。その層にけしかけるようになると、社会不安は増しますね。誰にとっても嬉しくない。

古市 社会保障費を削れば国家の寿命は延びる。若い世代にはいい話だけど、それでも一人あたりの利益はとても少ない。だから社会運動も起きにくい。

落合 つまるところ、今が背に腹はかえられない状況かどうかは日本医師会のようなステークホルダーの判断に頼るしかないんですかね。ある意味では今、チキンレースをしているわけですよね。ローカル最適が目の前にあるから、日本社会がぶっ壊れるギリギリまで局所解の中にいる。

古市 日本医師会というのはわかりやすい例だから出したけど、本当は、あらゆる人がチキンレースをしてるんじゃない? 多くの高齢者は無意識に「国家の寿命と自分の寿命、どっちが先に尽きるか」というレースをしていて、おそらく自分の寿命が先に尽きるから、この国を変えようと思わない。会社単位だともっとそうかもね。「俺の定年までは大丈夫。何とか逃げ切れそうだ」って。

落合 チキンレースで発想している人たちは、チキンレースの世界でしか生きてないからな。俺はチキンレースだと思ったことがまるでないから、わからんのだけれども。でも同じ世代はそう考えて動き始めている気もする。