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行き詰まる40代50代 どうすればモチベーションを維持しながら生きられるのか

宮坂学×角幡唯介 #2

note

50歳から修行して20年続けても、まだ70歳

角幡 飽きるというのは、やっぱり自分の中で読めちゃうようになったということなんですか。

宮坂 そうかもしれませんね。それに加えて、元々の性格もあるかもしれません。新しいもの好きなので。もはや、ジャンルが違うことを始めてもいいですよね。突然うどん職人になるとか(笑)。

角幡 そういう人、いますよね。

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宮坂 今から、修行して20年やれば、まあまあのところまで行けるんじゃないかと(笑)。今から20年やってもまだ70歳。まだまだいけますよね。50歳の節目って、種目替えのチャンスが生まれやすいということでもある。一つのことをとことん極めるという生き方もあるし、私みたいに飽きっぽい人だったら、もう1種目やったりとかね(笑)。前半の種目がいまいちでも、後半は大ブレイクするチャンスもあるっていうことですよ。

LIFE SHIFT』の著者、リンダ・グラットンさんもおっしゃっていましたけど、これまでは学生時代があって働いて、引退みたいな感じだったのが、今はクォーター制になっていますよね。だから、50歳は第3クォーターとも言える。数年前から、突然第3クォーターが皆の前に提示されて、70で人生終わると思っていたのが、75まで働くとなれば「自分は何をするんだろう」って考えざるを得ないんです。

新しい分野で、20歳の時のような瑞々しさを保てるか

角幡 仮に新しい分野へ行ったとして、20歳の時みたいな瑞々しさを保つことはできるんですかね。

宮坂 そこが課題ですよね。エネルギーのゲージが落ち切ってしまうと厳しいかもしれません。そういう人の場合は、第3クォーターから「脱システム」を目指さないと思います。第2クォーターの連続でいいじゃんみたいな感じで(笑)。

角幡 いや、そもそも面倒くさいですし、エネルギーを維持することはかなり大変ですよね。

宮坂 クールダウンしようみたいな感じになる人もいるかもしれない。

――お二人とも、どうやってモチベーションを維持していますか?

角幡 いや僕もモチベーション、落ちますよ。探検にも飽きますし……。だって、僕は学生の時からずっとだから、20年以上やっているわけですよ。山登りなんて、本当に飽きて。

 

宮坂 面白いなあ(笑)。

角幡 2年くらい前に「なんか飽きたなあ」と思って。山に関しては、自分の能力も分かってくるじゃないですか。「自分はもうここまでしか登れない」ということが。これ以上体力がつくわけでもないし、そこそこ経験もあって完全に新しい状況というのも中々なくて、過去の経験の追体験にしかならなくなってくるんですよね。そうすると急に飽きがきて。若い頃は同じ沢登りでも、「滝を登りたい」とか「ゴルジュを突破したい」とか難しいところを行きたいと思っていたのが、最近では釣り方向に走ってますね。夏の渓流釣りとか。

宮坂 なるほど(笑)。滝やゴルジュは……。

角幡 もうどうでもよくなっちゃって(笑)。魚が釣れるところに巡り合えたら、いい沢。遊び方を変えると完全に山を見る目も変わっちゃう。北極でもそうです。難しいルートや未踏の地を目指すのではなくて、「狩りをしながら行きたい」と考え出すと、全く角度が変わりますから。同じ場所にいても、見えてくる風景が全然違います。要するに、獲物のいる場所がいい場所という話になって、行動まで変わってくる。その土地の持つ意味が完全に変わってしまい、獲物のいるいい土地はどこにあるのかという観点で土地を見るようになる。そうすると、自然の違った側面も見えてくるし、また新しい面白みが出てくるんです。

©角幡唯介

宮坂 その感じ、すごくよく分かりますね。私の場合は、インターネットの中でも違うジャンルのことをいちから勉強して、またやろうかなって。本当に分からないことが多いんですが、素人に返ったのがすごく楽しくてね(笑)。だんだん慣れて見通しがよくなってくると、飽きるというか、ちょっとモチベーションが落ちてきちゃうんですよね。