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ユザーン「憧れの東海林さだおさんにカレーを作るまで」

ベンガル風チキンカレーレシピ付き!!

2019/01/01

 タブラ奏者のユザーンが、お手製カレー鍋を抱えて『タンマ君』でおなじみの東海林さだおさんに会いに行く――。『週刊文春 丸ごと一冊タンマ君 特盛!』に掲載されたスペシャル企画の舞台裏と、憧れの東海林さだおさんへの思いを、ユザーンみずから綴ります。

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 3年前の秋、阿川佐和子さんから突然「ユザーン、誰か会ってみたい人っている?」と聞かれた。いったいどういう質問なんだ、と思いながら、東海林さだおさんの名前を挙げた。ものの数分後、「東海林さん来てくれるって! 今度の火鍋会に」というメッセージが届き、僕は少し震えた。

 年に何度か、阿川さんを中心とした友人達で集まって夕飯を食べながら近況報告をする地味な会をやっているのだが、そこに東海林さんを呼んでくださったというのである。

 僕にとって東海林さんは、小さい頃からのヒーローだ。独自の視点を軽妙な文体でリズミカルに綴るエッセイがとにかく好きで、いつも手元に置いていた。小学校から帰るとランドセルを置くなり、すぐにうつ伏せに寝っ転がって東海林さんの本を開いた。はじめて一人で電車に乗って栃木の祖父母の家へ遊びに行ったときも、着替えの他には『キャベツの丸かじり』だけがカバンに入っていたのを覚えている。

 2015年10月5日、赤坂の火鍋屋で僕は東海林さんに対面した。憧れの人が目の前にいることに興奮したのか、メニューの文字もあまり目に入って来なくて、青島ビールを頼む東海林さんの声を頼りに「僕も同じのをください」と店員さんにそっと伝えたりした。

 同席していた西加奈子さんが「東海林さん、めっちゃかわいいな!」と何度も声を上げていた。気を悪くされないだろうかとちょっとハラハラしたが、正直、東海林さんは驚くほどチャーミングだった。ときおり見せる、少年のような笑顔にときめかされた。

 

人生でたった一回のサイン会に行っていた!

 小学生の時に、池袋のデパートで開催された東海林さんのサイン会へ行ったという話をしたら、東海林さんはだいぶ驚かれた様子だった。

「だって、サイン会はたぶん人生でそのとき一回しかしていないの。椎名誠さんたちとの合同サイン会だったんだけど、椎名さんのところには長蛇の列ができているのに僕の前にはほとんど人がいなくて。もうサイン会はやめようと思った」

 そう話す東海林さんを見て、僕は密かに感動を覚えていた。あの「グヤジー」と涙を見せるタンマ君が、まさに目の前にいるような感覚になったのだ。

 実際のところ僕はかなり並んでサインをもらった記憶があるし、その後サイン会をやらなかったのには何か別の理由があるのだろう。だがそれを独特のユーモアに包んで話してくれるのが、いかにも東海林さんらしい。

 僕の人生のバイブルとも言える『ショージ君の青春記』にサインをいただき、その会はお開きになった。東海林さん素敵だったね、という話を肴に、もう一杯だけ別の店で飲んでから帰路に就いた。