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「一番トクしたなと思うのは、不器量だったこと」――樹木希林が遺した生き方のエッセンス

『一切なりゆき~樹木希林のことば~』より

2019/01/16
note

自分で一番トクしたなと思うのはね、不器量と言うか、不細工だったことなんですよ

 私が今日まで生きてきて、自分で一番トクしたなと思うのはね、言葉で言うと、不器量と言うか、不細工だったことなんですよ。

 私は、普通だと思ってるんだけども、他人(ひと)がそういうふうに見るから、ああ、そうなんだなあと思って見ているうちに、器量よしばっかり集まる芸能界に入っちゃったんですよ(笑)。

©文藝春秋

 今でこそ、役の広がりが出てきましたけど、昔はお手伝いさんまでも、器量よしがやったわけですからね(笑)。ま、だから、自分が不器量だということに早目に気がつかされちゃってね。

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 それでね、案外自分としては、男を見誤らないできたという確信があるんですよ。要するに、見誤らないというのは、自分がこうだと思ったとおりなんです。それを選ぶか選ばないかは、自分の縁ですからね。

 だから、不器量であるために、他人が私に関心を寄せないから、こっちが自由に人を判断できる。今日まで、いろんな男の人との出会いがあって、中には、うーん、ねえっていうのもありますけれど(笑)、それも含めて納得しているんですね。不器量のトクな点だなあと。

(「そして、現代に貞女はいなくなった…」1988年3月)