文春オンライン

強い中国の“コワすぎる”側面――台湾の空港内で暮らす亡命中国人の「独占手記」

“謎の中国人スパイ”から逃げてきた元共産党員

2019/01/10
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タイでマッサージ師になった元中国共産党員

 この顔伯鈞(本名・顔克芬)は元中国共産党員で、かつては党幹部養成機関の中央党校の修士課程で学んだ体制内エリートだ。官僚になってから行政の腐敗に嫌気がさして北京工商大学の准教授に転じ、やがて新公民運動という体制内改革運動に加わったところ、習近平政権の成立によって「反党活動」扱いを受けてお尋ね者に。中国国内を約2年間逃亡した後にタイに脱出し、現地で亡命生活を送りながら運動を継続していた。

空港内からツイッターを通じて近況報告をおこなう顔伯鈞(左)と劉興聯(右)。2019年1月7日、空港生活103日目の投稿だ

 私が顔と最後に会ったのは2017年11月だ(当サイト過去記事の前編後編を参照)。当時、顔は中華街の奥にある中国医学診療所のマッサージ師となって糊口をしのいでいた。反面、タイの民主派シンパ系華人たちの間でのイザコザ(在外中国人の民主化運動はカネ・異性関係・権力争いで必ず衰退する)の結果、彼らの運動は袋小路に陥っており、顔自身もスパイ疑惑をかけられるなど中傷に苦しんでいる様子だった。

 当時の顔はひとまず生活のメドが立っていそうだったこともあり、最近はほとんど連絡を取っていなかった。昨年秋ごろ、彼がタイを出国して台湾の空港内で立ち往生していると聞いても「なぜ?」という疑問しかなかったのである。

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 しかし今回、彼から現状についての手記が送られてきた。以下、できるだけ原文の内容や表現を尊重しつつ、私が適宜表現を補った編訳を紹介してみることにしたい。人知れず国家と国家の狭間の空間に陥ってしまった「空港男」自身による、世界初公開の手記である。

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《世界初公開、「空港男」の手記》

 日本のみなさんこんにちは。顔伯鈞(顔克芬)です。昨年(2018年)の3月から5月にかけて、私が働いていた診療所には何者かによる通報が相次ぎ、よくわからない中国人(※中国政府関係者と見られる)がタイ警察を伴ってしばしばガサ入れにやって来たのですが、私はなんとか逃れていました。

 しかし、診療所のある従業員が警察に連行されて10時間も拘束され、その従業員が釈放後に「警察が捕まえようとしているのはあなた(=顔伯鈞)だ」と教えてくれたので、私は非常に焦りました。

顔伯鈞が働いていたバンコクの中華街の診療所。現在は存在しないようだ(2017年11月筆者撮影)

 生活の不安定さと悩みの多さで、私の頭はわずかな期間のうちに円形脱毛だらけになってしまいました。ガサ入れが繰り返されたことで診療所は2ヶ月にわたり営業を停止せざるを得ず、ついに昨年6月に移転したのですが、そこにも何者かが追跡してきていました。

 8月下旬、タイ北部にいる同じ人権活動家の劉興聯が「もしバンコクが危険ならこちらに来て難を逃れては」と連絡をくれたんです。そこで9月10日に劉のところに着いたのですが、こちらでも数日前から何者かが近くに住みはじめたことがわかったんです。

 その男は非常に怪しげで、年齢は30歳足らず、中国国内では退役軍人で派出所でも勤務していた人物だというのです。彼は何をどうやってか、劉が身を寄せている地元の高校のガードマンになり、しかし給料ももらわず、非常に簡素な住居に住んで、学生や先生たちと一緒に食事を摂っているのです。非常に不安を覚えさせる、怪しい男でした。