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強い中国の“コワすぎる”側面――台湾の空港内で暮らす亡命中国人の「独占手記」

“謎の中国人スパイ”から逃げてきた元共産党員

2019/01/10
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「空港男」生活がはじまる

 さいわい、バンコクの空港での出国手続きや搭乗はスムーズに進みました。フライトの10時間足らず前にチケットを購入したので、追手が対応するよりも前にタイを離れられたのです。これは、劉が以前にタイからの出国を図った際に空港で妨害されてしまった経験があることから、考え出したアイデアでした。

 台湾の桃園国際空港に到着後、私たちは乗継便である北京行きの飛行機に乗らず、空港内の第1ターミナルと第2ターミナルの制限エリア内を上階から下階まで歩き回りました。ちょっと落ち着ける場所を探して、劉とこれからどうするか相談するつもりだったのです。

 やがて、歩いてお腹がすき、牛肉麺の店を見つけて劉と麺をすすっていたところ、台湾側の入管(訳者注.原文では「移民署」だが今後はわかりやすくするため「入管」と書く。台湾の内政部移民署は出入国管理も主管する)のスタッフがやってきて、私たちの身分を確かめてから入管の空港オフィスに連れていき、取り調べをはじめました。これが、現在まで2ヶ月半近くも続いている台北での空港生活のはじまりでした。

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台湾の桃園空港に到着直後の顔伯鈞(右)と劉興聯(左)。本人がツイッター上で公開

 私たちはそれからずっと、桃園国際空港第1ターミナルの4階で生活しています。最初の5日間は台湾当局側からプラザ・プレミアム・ラウンジに滞在するよう手配されました。ただ、そのラウンジは食事は食べ放題で眠ることもできるので非常に素晴らしい場所ではあるのですが、滞在費が高すぎます。

 5日後にプラザ側から提示された利用料は2人で9万NT$(約32万円)。もちろん私たちに支払える額ではなく、滞在は続けられません(なお、支払い能力がないことがわかってから、台湾側からこの費用の請求はありません。大変感謝しています)。

 そこで台湾当局は再び別の場所を手配してくれました。これはプラザの休憩室で、ここでは無料で滞在でき、空港当局が1日に3回の弁当も出してくれたのです。プラザ側も私たちのために小さな部屋を用意してくれました。室内にはソファーがふたつあり、そこで眠るのです。また移民署が寝袋を提供してくれました。こうして、私たちは現在まで、この部屋で毎日寝起きをすることになったのです。

台湾側が提供してくれた「空港男」たちが寝泊まりしているスペース。横たわっているのは劉興聯氏(顔氏提供)

「台湾の空港スタッフはめちゃくちゃ優しい」

 その後、台湾側の大陸委員会(中国大陸に関係する業務を主管する部署)のスタッフが何度かやってきました。私たちがこれからどうするつもりか知ることも目的のようですが、私たちの生活についても大きな関心を払ってくれました。彼らは友好的で対等に話をしてくれて、行政の執行者として非常に真面目で礼儀正しく仕事をなさっている感じがして、非常に素晴らしい印象を持ちました。

1日3回、空港側から出る弁当。機内食の余りのように見えるが、これが生命をつなぐ糧だ(顔氏提供)

 また、空港での日々では入管のスタッフたちがずっと私たちの飲食や宿泊場所を世話してくださっています。彼らの様子も非常に真面目で誠実で、さまざまな局面で「中華文化の礼儀は台湾には残っていたのだ」と感じさせるものがありました。台湾側の人たちと接する中では、人間的な優しさや温かみを感じることが多く、人道主義の素晴らしさをつくづく痛感して、感謝しています。

 空港内の入管スタッフの人たちは署長・副署長・大隊長・隊長から一般職員にいたるまでみな人道的で、本当に驚いています。みなさん、ことあるごとに私たちのところを訪ねてくれて、「大変でしょう」と自分のポケットマネーで購った服やフルーツを差し入れてくれたりもするのです。

 私たち自身、自分たちが難民として台湾に逃げ込む行為が台湾当局に大きな迷惑をかけることはよく理解しており、大変申し訳なく思っているのですが、ゆえに台湾の入管スタッフたちの優しさや真心が身にしみます。