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『こんな夜更けにバナナかよ』が教えてくれる「夢は小さくていい」ということ

渡辺真起子――クローズアップ

 幼い頃から難病の筋ジストロフィーを患い、34歳になる今では自力で動かせるのは首と手だけ。24時間、誰かの助けを借りないと命の危険もある。そんな状況にありながら大勢のボランティアに囲まれ、ちょっと変わった自立生活を送っていた鹿野靖明さんの生涯が映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(主演・大泉洋)になった。

©2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

 わがままで、図々しくて、惚れっぽくて、おしゃべりで……深夜2時に突然「バナナ食べたい」と言い出す。

 名だたる映画監督からの熱烈オファーがたえない渡辺さんが演じるのは、そんな鹿野さんを支えたボランティア、前木貴子だ。

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渡辺真起子さん

「出演が決まって、まず原作(渡辺一史『こんな夜更けにバナナかよ』文春文庫)を読みました」

 2003年に刊行され、大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した作品だ。

「私も、多少ですが、被災地にがれき撤去のボランティアに行ったり、施設でのお手伝いに関わったことがありますが、自分の中で消化しきれないことがずっとあったんです。やりきれないことがありすぎると考えてしまったり。原作を読むことで、どう考え、関わっていくかは、自分なりでいいのではないかとヒントをいただいた気がします」

 介護は家族の負担となることが多い。しかし、鹿野さんは「母さんには母さんの人生がある」と、症状が軽かった頃は車いすでボランティア募集のビラを配り、24時間のローテーションを組んだ。