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福島県楢葉町で行われた二軍戦 人の縁と土地の縁を感じた夏

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2019/01/11

 旅が好きで野球が好きだ。ビジターユニフォームが好きだから、ビジター遠征に興味が湧いた。色々な地方球場を見て回り、その魅力にもハマりつつある。

 2018年に訪れた球場を数えてみると、24あった。伊藤智仁監督の富山GRNサンダーバーズを見に行った関係もあり、それだけで4球場増えた。遠くアルプスを望む球場で見る野球は気持ち良かった。一軍のビジターはドームでしか見ていないので、開放的な球場の気持ち良さを一層強く感じるのかもしれない。

 二軍も地方の試合がある。2018年8月4、5日には福島でスワローズ主催イースタン公式戦が行われた。福島県楢葉町(SOSO.Rならはスタジアム)でのヤクルトvs巨人。地方でホームというのも面白い。デーゲームなら日帰りも比較的容易だろうと見に行った。

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イースタン・リーグ公式戦が行われた「SOSO.Rならはスタジアム」 ©HISATO

 1塁側がヤクルトなので、ベンチをよく見るために失礼して3塁側の最前列に座る。隣には巨人のユニフォームの方が座ったので、とりあえず「ヤクルトファンですみません」と挨拶してみた。すると相手は「これ着てますが、実は楽天ファンなんです」と笑った。地元楢葉の方だった。

「福島ホープスの試合もよく見ます」。自分もホープス(現レッドホープス)を応援しに来ていた時期があったので、ホープスの話でも盛り上がった。今年はチアがなくなった、経営が苦しいようだというのはその時に聞いた。観客は見たところ巨人ファンが多かっただろうか。みな間近で見るプロ野球選手に興奮していた。巨人には一軍で見る選手もいるし、コーチ陣も知っている人が多いのだろう。「川相だ!」「片岡コーチイケメン!」。大の大人が子供のように喜んでいる。

 地元楢葉の話もした。球場の近くにも新しいモールや住宅が出来ていた。Jヴィレッジも再開したというが、「まだ帰ってきてる人は半分くらいかなぁ」と言う。

震災後から時が止まったように

 楢葉町は福島県中部からやや南の海沿いにある。東日本大震災の折には町の大部分が福島第一原子力発電所から半径20km以内の警戒区域に指定された。2015年になってようやく避難指示が解除となっている。今では立ち入り禁止区域への出入り口だ。

 私の妹一家は、楢葉町の少し北に位置する大熊町に住んでいた。福島第一原発の1号機から4号機があった町。原発事故があって妹一家は福島西部に避難し、後に千葉に移住した。ものすごく美味しい梨とキウイを作る農家だった。

 昨年義弟が亡くなり、その納骨で、震災後初めて大熊町へと足を踏み入れることになった。代々の墓はまだ大熊にある。このあたりは現在でもほとんどが「帰宅困難区域」であり、立ち入るには許可が要る。楢葉からマイクロバスに乗って北上し、富岡という町を通り、大熊へ入る。道々見る風景は、震災後から時が止まったように、地震の爪跡がそのまま。大熊の地に降りるには途中にあるゲートを越え、防護服を着て、行き帰りに放射線量を測らなければならない。見慣れた町は、信号も点かずひっそりと草木が生い茂っていた。人影はない。

 猛暑の中、防護服を着て汗だくで納骨した。家族みんなの遠足みたいに楽しくしようと妹が気を配ってくれ、楢葉で会食したり、懐かしい家で懐かしいものを見つけたり、防護服を着た笑顔で写真を撮ったりした。

 義弟は大の楽天ファンだった。元々特にプロ野球を見なかったが、楽天創設以来ファンになった。病床でも楽天の勝ち負けを気に掛け応援していたという。妹も楽天ファンだ。子供達も生粋の楽天ファンに育った。千葉に住んでも子供が家を離れても、一家で楽天を応援している。

 人の縁は不思議だ。地縁、血縁、その他の縁。様々な縁がきっかけで、人は特定の球団を応援する。大好きになる。なくてはならなくなる。そして何かの縁で、選手たちはその球団に入団し、球団を愛し、その地を愛し、ファンを愛してくれる。福島と東北と。縁は確かに結ばれて、自分にとっても今や身近に感じる土地だ。

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