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ディンゴやマイケル中村はどうしてる? オーストラリア野球の現在地

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2019/01/16

ハロー、ジョージ! 元気かい? マイナー助っ人とレジェンドたちが混在するオーストラリアウィンターリーグ

 野球好きは、オフでもボールゲームを観たい衝動に駆られる。

 1月から12月まで「観戦コンプリート」しないと正月も迎えられない(だから日本で正月を迎えることはほとんどないのだが)野球バカの僕が、この冬足を運んだのはオーストラリアだった。

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 千葉ロッテの平沢がニュージーランドにできた新球団でプレーしていたり、横浜DeNAの今永が無双していたりすることで(なんと防御率0.51)日本の野球ファンにもなじみになったオーストラリアのウィンターリーグ、ABL。昨年の春にも侍ジャパンのテストマッチの相手を代表チームが務めるなど、日豪両国の野球界の関係には浅からぬものがある。今は昔、日本が初めてオールプロで臨んだアテネ五輪での金メダル獲得を阻んだのもこの国だ。

 とは言え、野球に関してはいまだ後進国。日本に助っ人としてやってきた選手で、一般のファンの印象に残っているのは、2000年代前半の強かった阪神を支えた名リリーバー、ジェフ・ウィリアムスと、母国開催の2000年シドニー五輪に出場するためにメジャーの正捕手の座をなげうって中日に入団した(成績はさっぱりだったが)ディンゴ(本名はデーブ・ニルソン)、それに、北海道移転後の日本ハム優勝の立役者だった日系人投手マイケル中村くらいなものだろう。しかし、ディンゴが現在ブリスベン・バンディッツの監督を務めるほかは、日本で成功を収めたウィリアムスやマイケルは、直接的にはABLにはかかわっていない。もちろんプレーすることもなかった。なにしろひと月のギャラが5万円ほど。ひと財産築いた彼らにそんなリーグでプレーする義理もない。ウィリアムスは現在アメリカで暮らしているらしいし、マイケルは故郷のメルボルンで毎日釣り三昧の生活を送っている。

メルボルンの球場にあったマイケル中村の展示

日本でプレーしていた選手たち

 それでも、ABLに足を踏み入れると、日本でプレーしていたという選手に出くわす。主力選手は、ナショナルチームの一員として何度も日本に足を踏み入れているのはもちろん、日本のプロ野球や独立リーグでプレーした者は実は多い。

 メルボルン・エイシズの本拠地球場は、中心部から郊外へ電車で30分ほどのところにある。1、3塁ベースまでとは言え、この国の野球場にしては立派なスタンドの正面外壁には、このチームの英雄と言っていい投打の「レジェンド」の写真パネルが飾ってある。ジャスティン・ヒューバーとトラビス・ブラックリー。メジャーの舞台にも立った彼らは、それぞれ日本では広島、楽天でプレーしている。いまだアメリカの独立リーグで現役を続けているブラックリーは、今シーズンはライバルのブリスベンに移籍したが、その彼の写真をいまだに掲げているのはいかにもおおらかなオージーらしい。

 スタンドには毎試合日本人らしきファンの姿もちらほら見られるこのチームには、ことのほか日本にゆかりのある選手が多い。

 ルーク・ヒューズの名を知っているのは、よほどのオーストラリア野球フリークだろう。しかし、彼はオーストラリア球界にあっては成功者のひとりである。代表チームの常連で、WBCには2006年の第1回大会以来皆勤を続けている。もちろん来日経験も豊富で、今年のプレミア12でも日本に行くもんだとすでに自分で決めている。34歳になる今はオーストラリア野球連盟に勤めながら、ABLで現役を続けているが、若き日はアメリカでもプレーし、3シーズンメジャーにも在籍していた。そのメジャー時代、彼と二遊間を組んだのが、日本で現役続行を模索している「スピードスター」、西岡剛だ。2011年、鳴り物入りでツインズに入団した西岡はケガもあって、68試合の出場に終わったが、ルーキー級からたたき上げのヒューズは、この年キャリアハイの96試合に出場している。

 日本でのプレーの希望ももっていた親日家の彼に西岡の近況を告げると、「まだまだできるだろ」と、同い年の西岡の行く末を案じていた。

代表常連の元メジャーリーガー、ルーク・ヒューズ

 そして、ダリル・ジョージ。アメリカのマイナーでショートシーズンAまで昇格したあと、日本の独立リーグ、ルートインBCリーグの新潟アルビレックスに活路を求め、2シーズンプレーした後、オリックスとの育成契約を勝ち取った。残念ながらオリックスでは支配下登録はならず、1シーズンで帰国することになるが、まだ25歳。今ではメルボルンの正遊撃手としてプレーしている。彼もまた今では代表チームの常連で、昨年の日豪戦でも来日し、オリックス在籍時には縁のなかった京セラドームの舞台に立っている。今シーズンも好成績を残している彼にもう一度日本に戻りたくはないかと聞いたが、意外にも答えは、「ノー」。いわく、「こっちでのんびりやりたいよ」ということだった。連盟関係者の「もう少し練習すればいいのに」という声もうらはらに、オージーたちは、エンジョイ・ベースボールを母国で満喫している。

 彼には聞きそびれたが、北半球に「出稼ぎ」に行く選手以外は、ABLのオーストラリア人選手は基本、他に仕事をもっている。「プロ野球選手」であるのは夏(北半球の冬)の一時期だけだ。「野球一筋」なんてとんでもない、そんな彼らの生き方を垣間見るだけでもオーストラリア野球を実感できる。

BCリーグ新潟とオリックスに在籍していたジョージ
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