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「もう見たくない」虐待の問題が身近に感じられる物語

藤本由香里が『フーガはユーガ』(伊坂幸太郎 著)を読む

2019/01/21
『フーガはユーガ』(伊坂幸太郎 著)

 伊坂幸太郎らしい仕掛けが随所に施され、読み終わった後、鮮やかなイメージがいくつも残る作品である。

 まず、装丁が素晴らしい。鏡文字のようにして向かい合う「フーガ」と「ユーガ」。よく見ると間に「Twins Teleport Tale」の文字。

 そう。これは誕生日の日にだけ、2時間おきに、お互いの存在が一瞬にして物理的にテレポートして入れ替わる、という能力を持つ双子の物語なのだ。

「何でもできそう」って? たしかに誕生日に予め準備をしておけば、「ヘンシン!」と叫んで、ヒーローの格好に着替えていたもう一人と入れ替わり、ほんとうに変身したようにみせることくらいはできる。

 でも、この能力は意外と不便だ。だってその時間に相手がどこで何をしているのかわからない状況で入れ替わるのだから。たとえば誕生日だからって恋人と過ごしていたりすれば……ね。

 もう一つ、重要なことがある。この一卵性の双子「フーガとユーガ(=風我と優我)」は、幼いころから虐待にあって育ってきたということだ。じつはこの物語は、のっけから虐待の場面で始まる。

 世の中には、人に激しい暴力を振うことが平気な人間がいる。あまつさえ、相手が苦しんでいる様子を見て喜びを感じる人間さえいる。

 この物語の中には、そうした人間が何人も登場する。そして、「もう見たくない」ような被害にあう人間も、何人も登場する。