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最後の納得できる1作に向かって習作をずっと積み重ねている気がするんですよね。――白石一文(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/01/24

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「白石さんは同性婚をどのように考えますか?」(30代男性)

 

●小説一篇あたりにかかる時間を教えてください。(30代男性)

白石 今度出す『記憶の渚にて』は8年かかっているわけです。『ここは私たちのいない場所』なんかは1か月半かな。その時によってまるきり違いますね。

●今後映像化するとしたら、どの作品をやってほしいですか?(30代男性)

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白石 やっぱりデビュー作の『一瞬の光』ですね。

●白石先生の最近の作品を読むと、スピリチュアリズムに共感しているように感じる。共感しているのか、していないとすればどこに違いがあるのか。(30代男性)

白石 面白いと思いますね。霊能者の方たちの本もたまに読んだりします。彼らにそういう能力があることや、彼らが語っていることは本当だと思います。ただ、じゃあそれがこの世界に対して決定的な変更を求めるものであるかというと、そうではないと思います。あんまり、そういうものが好きだとか嫌いだとか思わなくていいんじゃないでしょうか。私は、そうなんだ、って静かに受け入れています。

●白石さんの作品の、財産や名誉、生活をなげうっても愛を貫こうとする登場人物に心打たれます。私は同性愛者です。そこで質問なのですが、白石さんは同性婚をどのように考えていますか?(30代男性)

白石 うーん、語弊があるかもしれませんが、いわゆる同性が好きな人とか、性同一性障害の人の話を聞いていると、ああ、本当に心と身体は別なんだなって思うんですよ。だって、身体が男なのに心が女だってことは、心が身体に支配されていないってことでしょう? それはご本人にとってはすごく大変なことだと思いますが。でもそういう方々を知ると、なにかやっぱり肉体だけではとらえられないものを私たち一人ひとりが持っているのだなあと感じます。

 だから、一定数そういう方がいらっしゃるというのはごく自然なことだと思うんです。それをある種の宗教などが禁じているとしたら、まったくひどいことだと思いますよ。で、現在ようやくそうしたことがある程度カミングアウトできる時代になってきて、そういう人たちがテレビにたくさん出てきているのは、とてもいいことだと思いますね。

 同性婚なんてまったくなんの問題もないですし、それに文句をつけるような人とは関わらないのが一番なのではないでしょうか。

●現在唯一の親子直木賞受賞作家ですが、お父様の作品を読まれたりしますか? 白石さんにとってお父様はどのような存在だったのでしょうか。(30代男性)

白石 父の作品は小さい時から全部読んでいます。父はすごくありがたい存在でしたね。さっきも言いましたが、私の才能を最初に認めてくれた人ですし。そのあと文春に入社したら手のひらを返したように「お前はこの会社を辞めるな」って言い続けていましたけれど(笑)、まあそれは置いておいて、やっぱり大事なものをもらったと思います。小説を書く資質ってどんなふうに遺伝するのか分からないけれど、もしそういう遺伝形質があるとすれば、それが親父由来であることははっきりしていますから感謝する以外にないです。

●白石さんが全作品のなかで一貫して描いていらっしゃるのは、人間の心を通しての救いだと思っています。生まれ変わりや霊的なつながり、人の魂や記憶というのは人の心から派生する現象だと思うのですが、白石さんは生きている人間と亡くなった人間それぞれに、心はどこにあると思われますか。(50代女性)

白石 えー? どうなんでしょうね。なんていうか、今年出る『記憶の渚にて』という本を読んでいただくと、結構記憶というものについては書いてあります。心や魂というものは、大多数の人は死ぬと比較的短時間でもっともっと巨大なものの中に吸収されていくのだろうと思いますね。

 私たちの心や魂が肉体を失ったあともこの世界にえんえんと残っていく、ということはごく一部の例外を除けばあまりないと思います。ほとんどはその大きなものに吸い込まれていくんじゃないでしょうか。