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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『バハールの涙』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

他者と敵

2019/02/03

 先日、アラブ首長国連邦の中学で「物語の書き方」という授業をする機会があった。

(1)“自分”を主人公にする

(2)“他者”を横におく

(3)“社会問題”を設定する

 と、物語の舞台が作れます。例えば『ロミオとジュリエット』も、(1)少年(2)少女(3)家どうしの確執、があるから、ドラマが始まるのです。

©2018-Maneki Films-Wild Bunch-Arches Films-Gapbusters-20 Steps Productions-RTBF (Télévision belge)

 そう説明したところで、わたしと同世代のエジプト系の女性教師が、他者を“敵(エネミー)”と解釈した。

「いや、必ずしも敵とは限りません。あなたが女なら男、子供なら大人、もしくはわたしみたいな外国人とか。ただあなたとは異なる者(アウトサイダー)のことです」と補足した。

 他者とはそういうものだと、わたしは長年思ってきた。だから、敵と解釈する人と出会い、おどろいた。その人こそわたしにとっての他者だった。あぁ、こうして遠い国まできてよかったなぁ。

 さて。この作品は、イラクのクルド人自治区でISに対抗する女性抵抗部隊の戦いを描いた、静かで強靱な社会派映画だ。

 二〇一四年、イラク北部のクルド人自治区で、ヤズディ教徒がISの襲撃を受けた。逃げ遅れた者は虐殺され、女性は奴隷として売られた。

 主人公バハールは、パリに渡って弁護士になったが、地元に帰省した夜、ISに襲撃される。自身は攫(さら)われ、幼い息子はISの軍学校に送られる。脱出後、女性抵抗部隊の隊長に就任。

 息子を取り戻すため戦う途中、戦場の取材で夫を失ったフランス人ジャーナリストのマチルドと出会う。立場の違う二人は、次第に互いの理解者となった。戦火は激しさを増し……。

 主人公の苦悩と勇敢さに心を砕かれた。それから、IS(エネミー)とマチルド(アウトサイダー)の両方がいることが、この物語を強靱にしているのだとも気づいた。

 (1)自分(2)他者(3)敵(4)社会問題!

 バハールの生き様に打たれると共に、ドラマツルギーをも学びました。

INFORMATION

『バハールの涙』
新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開中
http://bahar-movie.com

出典元

偽りだらけの安倍晋三

2019年2月7日号

2019年1月31日 発売

定価420円(税込)