文春オンライン

特集観る将棋、読む将棋

羽生善治の研究パートナーが見た「知られざる研究方法」と「オヤジギャグ」

羽生善治の研究パートナーが見た「知られざる研究方法」と「オヤジギャグ」

羽生さんが「人と違う」としたら、それは将棋に対する意識である

2019/02/01
note

いまなおヴェールに包まれている研究方法

「羽生善治はどんな研究をしているのか」――これは、1985年に羽生さんが中学生棋士としてプロデビューを果たして以来、30年以上にわたって注目されてきた将棋界の関心事である。だが、棋士たちの研究会の内容は基本的に公表されることはなく、またそれを棋士自身が詳細に語ることはほとんどない。羽生さんの「強さの秘密」にも直結している可能性がある研究会の内容は、いまなおヴェールに包まれている。

「羽生は、人となにかが違う。だから羽生は強い」。そうした仮説のもと、その人とは違う「何か」を探る試みが続けられてきた。私自身、研究会を始める前までは、羽生さんが人には真似のできない研究法を採用しているのではないかと考えたこともある。

天才が集まる棋界の中でも「異次元の強さ」と畏れられる羽生九段 ©文藝春秋

珍しく、少し厳しい調子で「そう?」と返した

 しかし結論から言えば、羽生さんが、特別に変わった研究方法を採用しているという事実はない。「持ち時間20分、切れたら1分」という練習対局を2局(先後1局)というスタイルも10年間、不変だ。羽生さんが人と「何かが違う」としたら、それは研究の方法論ではなく意識である。

ADVERTISEMENT

 羽生さんとの「VS」で、覚えていることがある。私はその将棋で負けたのだが、中盤までは優勢を感じていた。羽生さんに逆転負けを喫するのはよくあることなのだが、感想戦のとき、私は安易にこう言ってしまったのである。

「ここでは、この手で簡単に(こちらが)いいと思っていたんですけどね……」

 すると羽生さんは珍しく、少し厳しい調子で「そう?」と返した。

 羽生さんはいつも穏やかで和やかな人である。しかし私はそのとき、少しだけ場の空気が変わったのをはっきりと感じ取った。局面を検証してみると、確かに私の読みと形勢判断には甘さがあり、はっきりと優勢になるとは言えないことが分かってきた。