昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

東北山中で四人殺害人食い熊は同一犯なのか

source : 週刊文春 2016年6月23日号

genre : ニュース, 社会

「ツキノワグマに襲われ短期間に4人もの人が亡くなるなど聞いたことがない。日本の熊害(ゆうがい)史上、極めて異例の事態が発生しています」(地元警察関係者)

短期間に狭いエリアで死亡事故が発生するのは珍しい

 5月下旬以降、秋田県鹿角市の山中でタケノコ採りに訪れた人たちがクマに襲われ、命を落とす事故が相次いでいる。

「亡くなったのはいずれも60代~70代の男女4人。その他に、クマに遭遇し臀部を噛まれた女性もいます。程度の差はありますが、遺体の腹部などには、どれも大型動物に噛まれたような跡があった。特に一人目の被害者は、土の中に埋められた状態で発見されており、これはエサを埋めるクマの習性によるものとみられています」(同前)

 クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹教授が解説する。

「1988年に山形県で死亡事故が同じ年に3件起きていますが、事故の間隔は半年ほど開いています。これだけ短期間に狭いエリアで死亡事故が発生するのは珍しい。4件のうちの何件か、もしくは全てが同一の個体による被害である可能性は高いでしょう」

こんな爪で襲われたら…… iStock.com/Hailshaolow

 現場付近はネマガリダケ(タケノコの一種)の産地として知られ、この時期、県内外から多くの人が集まる。実際に被害者の中には、遠くから足を運んだ人もいた。鹿角連合猟友会の黒澤信雄会長はこう話す。

「タケノコが取れる場所はクマのエサ場にもなっているので、子グマを守ろうとして、親グマが凶暴化することもある。さらに、ここ数年は個体数が増えていて、どこにいってもクマを目撃するような状況です」

 前出の大井氏もこう語る。

「冬眠を終えたクマは4月の頭頃から巣穴をでて、餌を求めて活発に活動し始めます。この時期に生えるジューシーでタンパク質も豊富なタケノコはクマに取ってもご馳走なんです」

 それにしてもなぜ生命の危険を冒してまでタケノコ採りに訪れるのか。

「現場周辺には入山者からタケノコを買い取る業者もいるのです。相場が高騰気味で1キロ1000円ほどですから、一度山に入れば数万円単位のお小遣いになる。高齢な年金生活者にとっては、この時期だけの“貴重なボーナス”でもあり、『クマには遭ったことないから』と意に介さない人も少なくない」(地元住民)

 前出の黒澤氏も続ける。

「本当はみんなで行動する方がいいのだが、それぞれに“穴場”を持っているから単独行動しがち。そういう人こそ危ないのです」

犠牲者の中には“熊鈴”をつけていた人も

 現場周辺はなだらかな丘陵状だが、笹藪が生い茂り見通しは非常に悪い。

 そんな中、地元猟友会は10日に現場近くで雌のツキノワグマ一頭を駆除した。

「解剖したところ、クマの胃袋からは人体の一部が見つかりました。しかし、捜索の過程では複数のクマが目撃されており、今なお予断を許さない。このクマが“殺人犯”ではなく、通りがかりに遺体を見つけ、食害した可能性も高い。今後も現場周辺でパトロールの強化に努めます」(前出・地元警察関係者)

 捜索にはヘリも登場したが、こんな一幕もあった。

「上空からの捜索中、一頭のクマを発見しましたが、ヘリの爆音にも逃げる素振りはなかった。犠牲者の中には“熊鈴”をつけていた人もいた」(同前)

 大井氏もこう指摘する。

「4人が食害されたとすると、クマが“人の味”を覚えてしまった可能性は高い。襲ってみたらほとんど抵抗もなく、人間は倒しやすい獲物、と認識しているとしたら危険です」

 クマと人との関わりに、“変化”が生じつつあるのかもしれない。

 

はてなブックマークに追加