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医師に聞く、インフルエンザ対策の「うがい」「マスク」不要説は本当か

テレビの視聴率は良くてもワクチン接種率は低い

2019/02/09
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 最近、大谷医師が特に推奨しているインフルエンザ対策が「歯磨き」だ。

 日本の高齢者施設で、入居する高齢者に対して歯科衛生士が積極的に歯磨き指導を行ったところ、インフルエンザの発症率が10分の1に下がったという研究報告がある。

「口腔内細菌が産生するプロテアーゼとノイラミニターゼという2つのタンパクが関係しています。プロテアーゼはインフルエンザウイルスが気道に入るサポートをし、ノイラミニターゼはウイルスが細胞内で増殖するのを助けます。そこで、歯磨きや舌磨きを頻繁に行えば、それだけでインフルエンザウイルスが棲みつきにくい環境になるわけです」(大谷医師)

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 歯磨きは何度やっても害はないが、大谷医師によると最低でも朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の1日4回は、丁寧に歯を磨き、できれば舌のブラッシングもしてほしい、と呼びかける。

実はビタミンCよりも有効な日光浴

 インフルエンザ予防に効果的な栄養素というと、多くの人はビタミンCを思い浮かべる。しかし、実際にはインフルエンザウイルスに対してビタミンCの有効性を示すエビデンスは少ない。

「じつはビタミンCよりも、インフルエンザをはじめとする呼吸器疾患に対して、高い有効性が示されるのがビタミンDなのです。ただこの研究はサプリメントを使用して検証しており、一般食材からの栄養補給という形ではありません。でも、ビタミンDを含む魚やキノコなどは積極的に食べておくべきでしょう」(大谷医師)

 ちなみに、ビタミンDは日光浴によっても生成される。

「日本の日照時間で計算すると、12月の晴天の正午で、1日当たり北海道だと約70分、関東で約20分、沖縄だと1日当たり10分弱の日光浴で、必要量のビタミンD生成が可能だという調査結果があります。これは顔と手の甲だけが日に当たる、という条件で計算されているので、コートを着たままでOKです」(大谷医師)

©iStock.com

インフルエンザは急激に症状が進む

「食」による対策があれば、「睡眠」からのアプローチもある。

 さすがに日本ではできない大胆な実験が、アメリカで行われたという。

「代表的なかぜのウイルスであるライノウイルスを、被験者の鼻の粘膜に塗ったうえで、睡眠時間ごとに感染する確率を調べるという実験です。7時間寝た人を基準にした時、6時間未満の人は4.2倍、5時間未満だと4.5倍も感染しやすいという結果が出たのです。これはかぜのウイルスを使った試験ですが、インフルエンザウイルスにも通用すると考えられます。私の見解としては、せめて睡眠時間は6時間を切らないようにしてほしいと考えます」(大谷医師)

「インフルエンザで休むのは学生まで」とか、「自分はインフルエンザにかかっても電車で通勤していた」などという会社経営者のネットでの発言が炎上を招いたようだが、そろそろ本気で認識を改めるべきだろう。

「かぜはじわじわと悪化するのに対して、インフルエンザは急激に症状が進みます。そんなインフルエンザ特有の症状が出たときは、とにかく学校や会社は休んで、なるべく自宅近くの医療機関を受診すること。それが当たり前の社会にならなければ、いつまで経っても流行は繰り返します」と大谷医師はため息をつく。

 来年の今頃も、同じような原稿を書くことになるのだろうか……。

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