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18億円引き出し事件 出し子が明かした「指示命令系統」

source : 週刊文春 2016年6月23日号

genre : ニュース, 社会, マネー, 経済

「『これを使って引き出せるだけ引き出せ。引き出せた額の5%がお前の取り分だ』と言われ、10枚のカードを差し出されました」

 20代の男性は、怯えるようにそう打ち明けた。

 5月15日早朝、わずか3時間の間に全国のATMから合計18億6千万円が不正に引き出された事件。

「犯行に使われたのは南アフリカの銀行が発行したクレジットカードの記録を移した偽造カードでした。よくある手ですが、全国一斉にこれだけの額が引き出されたのは前代未聞。金を引き出す“出し子”と言われる実行犯は100人ほどという報道もありますが、実際はその倍以上はいると見られています」(社会部記者)

全国津々浦々にあるATM ©共同通信社

 冒頭で告白するのは“出し子”の1人、A氏だ。

「もともと知り合いだった不良の先輩から連絡が来たのは犯行の1週間前くらい。振り込め詐欺や車上荒らしなどワルを生業にしている俺らのような連中は皆、身元が割れない“飛ばし”の携帯を持っていて、それに連絡が来たんです」

 A氏は二つ返事で快諾したという。

「『運転手はこっちで用意するからお前は金を引き出すだけでいい』と言われ、単純に『それはいい仕事だ』と思いました。防犯カメラの問題はありますが、ある程度顔を隠せばいいと思った。その時点で15日に決行することは決まっていましたね。

 ただ、最初の説明では『カードは1人5枚。朝から晩までコンビニを回って、引き出せるだけ引き出せ』という話でしたが、犯行直前に渡されたカードは10枚。しかも『朝5時から3時間だけやる。セブンイレブンのATMでやれ』と細かい指示があったのです。暗証番号は10枚とも同じでした」(同前)

最初は報酬を貰ってラッキーくらいに思ってたんですが

 結局、A氏は友人らの協力を得て3時間の間に関東のコンビニATMを回り、1千万円近い現金を引き出したという。報酬は約束された通り5%だった。

「引き出した直後にそのまま先輩の所に直接持っていきました。大金に目がくらみそうになりましたけど、そのままトンズラしようものなら一生街を歩けなくなる。実際、今回500万引き出して飛んだ馬鹿がいるらしく今先輩たちが血眼で捜していますよ」(同前)

 出し子と運転手はセットで動く。金を盗まぬよう、互いを監視するのだという。

「引き出し額の5%を出し子。運転手も5%。そして、先輩のような指示する立場の人の取り分は15%と聞いています」(同前)

 5月31日、愛知県警国際捜査課は20代の「出し子」2名を窃盗容疑で逮捕した。手口はまったく同じだ。名古屋市と小牧市のセブンイレブン二店舗に設置されたセブン銀行のATMから、12回にわたって現金計120万円を引き出した。報酬は5万円ずつだったという。

「愛知で逮捕された2人組はまさに運転手と出し子でしょう。最初は報酬を貰ってラッキーくらいに思ってたんですが……自分もヤバいと思う」(同前)

 6月6日には新たに都内で出し子役だった30代の男が逮捕された。

「今回の件では警視庁の組織犯罪対策特別捜査隊が動いている。この部隊は偽造カード犯罪の捜査を専門とする捜査員で構成されています。警察も本気ってことです。今後もどんどん逮捕者は出てくるでしょう」(前出・社会部記者)

 6月14日現在、逮捕者は6名にのぼっている。