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藤井聡太七段が朝日杯2連覇の快挙 今後、期待がかかる記録更新は?

藤井聡太七段が朝日杯2連覇の快挙 今後、期待がかかる記録更新は?

16歳6ヵ月での棋戦連覇は、羽生九段を大幅に上回る年少記録だった

2019/02/16
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 史上最年少棋士の藤井聡太七段がまた新たな金字塔を打ち立てた。2月16日に行われた朝日杯将棋オープンの決勝で渡辺明棋王を破り優勝。同棋戦では昨年も優勝しており、2連覇となった。

©志水隆/文藝春秋

 藤井は、局後に自身の快挙を控えめにこう語った。

「渡辺明棋王とは練習対局を含めて対局したことがありませんが、最近、非常に充実されている印象があり、対局が楽しみでした。決勝はこちらが途中から攻めていく展開になりましたが、うまく対応をされて、少し苦しくなった場面もありました。秒読みに入ってからも落ち着いて自分の将棋を指せ、優勝の結果を残すことができてうれしいです。

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 トーナメントではトップクラスの棋士の方たちと対戦することで、自分自身も成長できたと感じています。今回の優勝を機に、さらに力をつけてタイトルに一歩ずつ近付いていきたいです」

師匠の杉本昌隆七段(左)とともに取材を受け、笑みをこぼす藤井 ©志水隆/文藝春秋

トーナメントの連覇が難しい理由

 16歳6ヵ月での棋戦連覇は、羽生善治九段が1987~88年での天王戦(現在は棋王戦と統合)連覇で達成した18歳2ヵ月(当時)を大幅に上回る年少記録である。連覇に限らずとも、これより年少の棋戦優勝記録は藤井自身が昨年に達成した朝日杯優勝と新人王戦優勝、加藤一二三九段が1955年に15歳10ヵ月で「六・五・四段戦」(のちに古豪新鋭戦、名棋戦を経て、現在の棋王戦に統合)を制した3例しかない。

 来期にはV3がかかるわけだが、挑戦手合いであるタイトル戦と異なり、トーナメントを下から(前年優勝によるシードはあるが)勝ち進んでの連覇は特に難しい。朝日杯での3連覇は2013年度~15年度に羽生が達成した例が唯一あるだけだ。その前身棋戦である全日本プロ将棋トーナメントに遡っても、1983年度~85年度に谷川浩司九段が達成した例があるのみである。

 少し視野を広げて、トーナメント棋戦における最多連覇を見てみると、大山康晴十五世名人が早指し王位戦(のちに王位戦へ)で1954年度~1957年度に、羽生がNHK杯戦で2008年度~11年度に達成した4連覇が最多連覇となる。他にトーナメント棋戦での3連覇以上は、郷田真隆九段が1993年度~95年度に将棋日本シリーズで、深浦康市九段が1999年度~2001年度に早指し新鋭戦(現在は終了)で達成した例がある。王座戦19連覇の羽生、名人戦13連覇の大山をもってしても、トーナメント棋戦では4連覇が最高であることを考えると、多彩なプロ棋士を相手に勝ち進むことの大変さがわかる。

朝日杯オープンの準決勝、決勝戦は公開対局で行われ、チケットはすぐ完売していた ©志水隆/文藝春秋

8大タイトル獲得の最年少記録は18歳6ヵ月

 では、今後の藤井に、他にどのような記録更新の期待がかかるか見ていこう。

 全棋士参加の公式トーナメント棋戦優勝も偉業だが、将棋界でより評価されるのは8大タイトルの獲得である。その最年少記録は18歳6ヵ月、屋敷伸之九段が1990年に棋聖を獲得した際のものだ。現在、藤井にもっとも更新の期待がかかる記録であると言える。

 仮に最速で記録更新が実現すると、今年(2019年)の6~7月に決着されるであろう棋聖戦となる。奇しくも、屋敷が達成したのと同じタイトル戦だ。現在2次予選の決勝まで勝ち進んでおり、そこを抜けると決勝トーナメントだ。ここで4連勝すれば豊島将之棋聖との五番勝負へ挑むことになる。