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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2014/12/06

武器用ですから
――健さんの時代劇映画原作を読む

  高倉健さんの訃報が、ピンと来ない。こういうときの決まり文句「巨星墜つ」とか「ひとつの時代が終わった」っていうのも似合わない。だって、別に墜ちてもないし、終わってもいないでしょ? 新作が出ないってだけで、健さん、網走とか夕張とか八甲田山とか南極とかナゴヤ球場とかに普通にいるよね? って思えてしまう。

 だからむしろ感覚としては引退に近い。山口百恵が引退しても「いい日旅立ち」は結婚式で歌われるし(どうでもいいけど、ひとりで旅に出るという歌がなぜ結婚式ソングになってるんだろう)、長嶋茂雄が引退しても「ミスタージャイアンツ」と言えばたぶん永久に長嶋だ。それと同じだ。あーあ、健さんも引退かあ。残念だけど、お疲れさまでした。

 そんな健さんだが、時代劇の出演は、調べた範囲では2作しかない。そのひとつが、まるでこの季節に合わせたかのような赤穂事件モノである。池宮彰一郎原作『四十七人の刺客』(角川文庫)。健さんは主役の大石内蔵助だ。

四十七人の刺客〈上〉 (角川文庫)

池宮 彰一郎 (著)

角川書店
2004年4月 発売

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四十七人の刺客〈下〉 (角川文庫)

池宮 彰一郎 (著)

角川書店
2004年4月 発売

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 えええ、健さんが大石内蔵助ぇ?

 えー、なんか違う。だって内蔵助って策士じゃん? 策士って健さんから最も遠いところにあるキャラじゃね? あまりのミスマッチに、私の脳内では、討入りの日に雪の中で死の行軍をした挙げ句、吉良邸に満艦飾のごとき黄色い手ぬぐいが掲げられるというニュー忠臣蔵が展開されたほどだ。

 しかしその印象は、『四十七人の刺客』を読んで180度変わった。これ、健さんだわ!

【次ページ】謀略小説としての忠臣蔵

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