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「朝食抜き」はこんなに危険!

朝ごはんは生活習慣病の予防にも効果あり

source : 週刊文春 2016年3月17日号

genre : ライフ, ライフスタイル, 医療

「起き抜けは食欲がない」「ぎりぎりまで寝ているから時間がない」……朝食は食べた方がいい、とわかっていても、つい抜いてしまう人も多いだろう。だが、朝食を抜くと、高血圧、糖尿病のみならず、脳出血のリスクまで高くなることが最新の研究により判明した。

朝食を抜くと、脳出血リスクが高まる

 国立がん研究センターと大阪大学の共同研究グループが先月、米国の脳卒中専門医学誌『ストローク』に発表した研究結果が話題となっている。

「これまでも朝食欠食は、高血圧、脂質異常、肥満、II型糖尿病といった生活習慣病のリスクになるといった研究結果はありました。また子どもが欠食すると、集中力が低下し、成績が下がったり、怪我しやすくなるということも指摘されてきました」

朝ごはんナシは子どもだけでなく、成人にも悪影響をおよぼす。©iStock.com

 そう語るのは、先の研究を主導した大阪大学医学系研究科の磯博康教授だ。

「ですが今回の研究で、子どもだけでなく、45歳以上の健康な成人でも朝食欠食の習慣は、生活習慣病の先にある脳卒中、中でも脳出血につながってしまうことがデータではっきりと浮かび上がりました。日本で脳卒中と朝食摂取頻度の関連性を見た研究は初めてです」

 研究のベースとなったのは、1990年に国立がん研究センターが始めた、総計14万人を対象にした「多目的コホート研究」だ。これは5年ごとに行われる詳細なアンケートを基にした調査で、普段の様々な生活習慣に加え、130品目以上の食材について食べる量と頻度を尋ねている。

 このアンケート調査をベースに、岩手、茨城、長野、長崎、沖縄など全国8県・9カ所の保健所管内に住む、45歳から74歳の男女約8万3000人を対象に、1995年から2010年まで追跡調査した。これだけの規模で朝食に関する調査が行われたのは、日本初でもあるという。

「その結果、脳卒中を発症したのは、3772人でした。その人たちをさらに朝食をとる頻度でグループ分けしました」(同前)

 1週間に朝食を食べる回数が、(1)0〜2回(2)3〜4回(3)5〜6回(4)毎日、という4つのグループに分けて比較したところ――。

「毎日きちんと朝食を食べている(4)グループに比べ、0〜2回の(1)グループは、脳出血発症リスクが36%も高いことがわかったのです。脳梗塞を含めた脳卒中全体では18%高いという結果が出ています」(同前)

「脳卒中」とは、脳内の血管が詰まる脳梗塞、血管が破れて出血する脳出血、くも膜下出血などの総称である。

 脳出血の1番の原因となるのが高血圧だ。長年の高血圧症は動脈硬化を進ませ、脳の血管をもろくする。そこへさらなる高血圧が続くことで血管が破れてしまい、出血するのだ。

起床後、1時間以内に朝食を

 では、なぜ朝食を抜くと脳出血を発症してしまうのか。

 山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター長で、国際医療福祉大学教授の内山真一郎氏が解説する。

「人は目覚める1時間ほど前から、来るべき活動に備えて血圧を上昇させます。その後、正常な人の血圧は徐々に下降しますが、高血圧の傾向がある人は上がり続けて、早朝高血圧、モーニングサージと呼ばれるような状態になるのです」

 朝食を摂らないと、この早朝高血圧に拍車がかかる。そのメカニズムは次のように考えられている。

「朝食を欠食すると、人は空腹ストレスを感じ、自律神経をコントロールする視床下部が脳下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌するように指令を出します。すると身体の状態を正常に戻すために副腎からコルチゾールやアドレナリンといったホルモンが分泌されます。コルチゾールはブドウ糖をつくる働きなどを持つホルモンですが、過剰に分泌されると、血圧を押し上げてしまうのです」(前出・磯教授)

 それを防ぐために朝食が有効なのだという。

健康リスクを下げるために朝食を。©iStock.com

「食べ物を摂取すると、胃や肝臓が動き始めます。すると、そのシグナルが脳下垂体、視床下部などに届いて、血圧を上げるような余計なホルモンを分泌することが防げます。血圧がピークとなる前、つまり起床後1時間以内に朝食を摂るのが理想です」(同前)

朝食を摂らないと、血糖値にも悪影響が

 朝食欠食の悪影響は、血圧だけではない。

「朝食を摂らず、昼食、夕食だけだと、『食後高血糖スパイク』と呼ばれる血糖値の急激な上昇を招き易くなると言われています。糖尿病も高血圧に次ぐ、脳卒中の重大なリスクとなっています」(前出・内山氏)

 一方で、脳卒中や虚血性心疾患は、そもそも「朝に起きやすい病気」という研究結果がある。

「就寝中は1日の中で最も発汗量が多く、朝方の血液の粘度は上昇しています。そこに血圧上昇、1日の活動が始まることへの精神的ストレスが重なります。ですから、脳卒中は早朝から午前中が、発症率が1番高まる時間帯なのです」

 そう説明するのは、東京女子医科大学の大塚邦明名誉教授だ。

 大塚氏は、1972年に発見された「時計遺伝子」に着目する。

「この遺伝子は脳や体中の細胞に存在して、1日24時間という体内時計を司っています。朝起きて、夜眠るという人間本来の生活リズムが乱れ、体内時計とズレが生じると、生活習慣病を引き起こす原因となります」

 特に現代人は夜中にパソコンやスマートフォンなどを長時間使用することが少なくない。すると、これらが発する強い光を受けて「昼間」と勘違いして、体内時計が乱れてしまう。

 時間栄養学を研究する早稲田大学先進理工学部の柴田重信教授も、「体内時計」の乱れが、朝食欠食につながっていると指摘する。

「朝きちんと起きられず、10時くらいに朝食、15時か16時に遅い昼食、夕飯も21時以降になってしまうパターンです。“朝食時差ボケ”と呼んでいますが、こういう生活をしている人は、昼食も欠食する傾向があり、夜にまとめ食いをしてしまいます。すると質のいい睡眠が得られず、ますます夜型になってしまうのです」

 決まった時間に起床し、毎日きちんと朝食を食べるにこしたことはないが、それが難しい人もいる。夜勤などシフトワーカーはどうすればいいのか。

 実際に、シフトワーカーの24時間血圧を測定し、特徴を調べたのは、埼玉県・小川赤十字病院内科部長の清水聡医師だ。

「夜勤などで午後に起床する人も、やはり起床前から血圧が上がり始め、起床後約2時間で最初の血圧のピークを迎えるというパターンでした。ただ、朝型の生活サイクルの日勤者に比べ、夜中の活動中の血圧も、寝ている間もやや高めで推移することがわかりました。ですから、起床後の食事はより大切だと考えられます」

 では、起床後1時間以内に何を食べるのが効果的なのだろうか。

 理想は、和食であればご飯にみそ汁、焼き魚に野菜といった品数が多い旅館の朝食、洋食ならパン、サラダ、スープ、玉子にベーコンといったホテルのスタイルだという。

 前出の柴田教授は20〜50代の男女1200人を対象に、朝食の内容と健康状態を調べている。1乳製品、玉子、2魚介、肉、豆、3野菜、芋類、果物、4穀物、砂糖、油脂の四群に食品を分け、各群のうち1つでも食材を摂取していたら1点とした。何も食べなければ0点である。

コンビニのサラダチキンを活用

「体が重い、目覚めが悪い、気力がないといった不調を1番訴えたのは0点の人たちで、2点、3点と増えるごとに不調を訴える人は減って行きました。ただ、4点になると食べ過ぎなのか、お腹の張りや胃痛を訴える人が多く出ました」(前出・柴田教授)

 前述の通り、胃を動かすことが大切なので、できるだけ固形物を食べることが大事だという。

「固形物であれば、スムージーでもいい。血中のインスリン分泌を促すことが、体内時計のリセットにつながります。おにぎり1個でもパン1枚でもいいので、何らかの炭水化物を摂ることを心がけてください。そこに1、2品プラスしたいところです」(同前)

 そうはいっても時間がない人のために、栄養検定協会代表理事の松崎恵理氏が効果的なメニューを教えてくれた。

「おにぎり、パンなどにもう1品加えるのであればタンパク質、つまり肉、魚、豆腐、玉子、納豆、乳製品などがオススメです。こうした食品には、糖質などを効率よくエネルギーに変えるビタミンB1やB2が含まれているからです」

 その伝でいけば、ご飯にふりかけよりは、玉子かけご飯。おにぎりの具も、梅干しや昆布より、鮭や肉そぼろがいい。

鶏胸肉の加工品(サラダチキン)など、タンパク質を補給してバランスよい朝食を。©iStock.com

「最近はコンビニやスーパーなどに鶏胸肉(サラダチキン)が置いてあります。ヘルシーなのに食べ応えもあります。こうしたものを取り入れるのも手ですね。朝はどうしても食欲がなく、コーヒーだけという人は、フルーツ入りのヨーグルトはどうでしょうか。ヨーグルトには良質のタンパク質が含まれており、フルーツにより糖質も摂れます。プレーンタイプよりも、オススメです」(同前)

 つまるところ、朝食を食べる生活サイクルになっていないこと自体が、身体に様々な悪影響を及ぼすということがいえるだろう。

「なんとなく夜型の生活になってしまっている人が、体内時計を朝型に戻すには、まずは朝日を浴びて、ここで紹介したような朝食を1週間頑張って続けることです。2、3日ではリセット出来ませんが、やがて体内時計が追いついてくるはずです」(前出・柴田教授)

 江戸時代の儒学者で「養生訓」を著したことで知られる貝原益軒は、こう綴っている。

「およそ朝は早くおきて、手と面を洗ひ、髪を結ひ、事をつとめ、食後にはまづ腹を多くなで下ろし、食気をめぐらすべし」

 朝食こそ1日を乗り切るだけでなく、人生を健康に過ごすための“秘訣”なのである。