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鈴木 英寿
2017/01/28

2017年、日本サッカーが危ない!?

TSGレポートでクールに分析

「果たして日本サッカーは強いのか!?」

 FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップアジア最終予選を戦うサッカー日本代表の戦いを見て、少なからぬファンがそんな疑問を抱いてきたに違いない。日本はグループBの10試合中5試合を終えて、勝ち点10の2位に位置する。

 このまま2位以内をキープすれば来年のロシア大会出場権を得るわけだが、首位のサウジアラビアとは同勝ち点であり、3位のオーストラリア、4位のアラブ首長国連邦とは勝ち点1差。予断を許さない状況が続く。

 近年、サムライブルーが「予選を突破できないかも知れない」緊張感にここまでさらされてきたのは、初出場を果たした1998年フランス大会の予選以来かも知れない。だが、海外のサッカー関係者は2018年ロシア大会予選での日本代表をクールに分析していることを忘れてはならない。「日本サッカー界自体が、現状では停滞しているのではないか」という厳しい意見すら聞こえてくるほどだ。

クラブワールドカップで感じた、ある“空気感”

 筆者が直近でその“空気感”に直面したのが、昨年12月に行われたFIFAクラブワールドカップだ。

 この大会で開催国枠の鹿島アントラーズは、アジア勢初となる決勝進出の快挙を達成している。最終的には2-4と敗れたものの、レアル・マドリードを一時はリードするなど大健闘を披露。世界中から称賛を浴びた。 

 FIFA主催大会後に発表される『テクニカル・スタディ・グループ(TSG)レポート』という国際文書がある(英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語の4カ国版)。TSGのチーフを務めるのは元スイス代表FWのジャン・ポール・ブリーゲルで、彼はクラブワールドカップでは試合を追うごとに逞しさを表現していく鹿島を評して、決勝戦の前には「バランスの取れた、組織的で優れたチームだ」と私に耳打ちしてくれた。昨年のクラブワールドカップのTSGレポートはまだ発表されていないが、鹿島の大健闘は高く評価されると予測できる。

 だが、Jリーグ王者の大会前の下馬評は決して高くなかった。これは2010年南アフリカ大会から2014年ブラジル大会のワールドカップ2大会における日本代表の戦績と無関係ではない。

「期待値が高かった分、失望も大きかった」

 2010年大会のTSGレポートで「印象深い戦いを残した」と記された日本代表と日本のサッカー界は、同じくベスト16に入った韓国と並んでこう称賛されていた。

「育成年代での取り組みが徐々に実を結んだ」

「アジア域外でのプレー経験を積んだ多くの選手が、国際経験を積んでいる」

「アジア出場4カ国中3カ国で、自国人監督(※2010年大会では日本、韓国、北朝鮮)が占めている事実は、アジアにおける指導者育成の進化も象徴している」

 ところが2014年大会では、アジアの4チーム(日本、韓国、オーストラリア、イラン)がすべてグループリーグで敗退。TSGレポートの論調も日本と韓国に対しては「期待値が高かった分、失望も大きかった」と手厳しく、アジアサッカー界全体に対しても「創造性、アイデア、洞察力、試合の流れを変える選手に欠けていた」と総括している。

2014年ブラジルワールドカップのTSGレポート

 代表チームのパフォーマンスと戦績は、その国のリーグに所属するチームの実力を必ずしも反映するわけではない。その逆もまた然りである。とはいえ、欧州や南米とは異なり、日本のサッカー界の現状は日常的に世界配信されているわけではない。海外のメディア関係者からすれば日本は「2014年大会で惨敗したアジアの国」であり、「ロシア大会予選の戦いぶりも決して盤石ではない」程度の認識にとどまっているのだ。

アントラーズの評価に影響が……

 先月のクラブワールドカップを前にして、FIFAのメディアチームのスペイン人スタッフと私の間でこんなやり取りがあった。

「プレーオフの鹿島とオークランド・シティFC(オセアニア代表、ニュージーランド)の一戦だが、どちらが勝つと思う?」
 
 彼の質問に対して、私は「もちろん鹿島が勝つさ。前回大会(2015年のクラブワールドカップ)でのサンフレッチェ広島が勝ったように」と即答した。すると彼は首を横に振りながら「オークランドが勝つ」と断言。「日本代表とニュージーランド代表が戦えば、10試合中9試合までは日本が勝つはずだ」という私の声にも首を振ったのだ。

 鹿島はプレーオフを難なくモノにして、その後のマメロディ・サンダウンズ(アフリカ代表、南アフリカ)との準々決勝、アトレティコ・ナシオナル(南米代表、コロンビア)との準決勝でもそれぞれ勝利を収め、ファイナルへと勝ち進んでいく。各試合前に同じ質問が飛んできて、同じ回答(「鹿島が勝つはずだ!」)を返すのだが、そのたびに「日本のクラブが勝つなんて、あり得ない」と苦笑いされたものだ。
 
 このスペイン人スタッフの意固地なまでの低評価の根拠は、TSGレポート以外にも存在する。それが近年のFIFAランキングである。

FIFAランキング46位の意味

 2006年ドイツ大会(グループリーグ敗退)で年間47位だった日本は、南アフリカ大会でベスト16に入った2010年に年間29位。グループリーグ敗退を喫した2014年ブラジル大会の年には54位とランキングを大きく落とし、その後は少しずつ順位を上げて今年を迎えた。本稿執筆時点(2017年1月)では46位である。

 3月23日にUAE(アラブ首長国連邦)とのアウェーマッチで、日本代表のロシア行きをかけた戦いが再開する。残り5試合中3試合を中東勢とのアウェーで戦わなければならないだけに、一試合ごとの緊張感は過去の最終予選の比ではないだろう。ワールドカップ出場国は32カ国。過日行われたFIFA理事会で2026年大会より出場国は48に拡大した。

 少なくともFIFAランキングだけ見れば、日本はまだまだ本大会の「当落線上」をさまよっている。これが現実だ。このランキングは必ずしも各国の強さを正確に表すものではないが、それでも時々の「サッカー強国指標」として機能してきたことは間違いない。

 若手選手のポテンシャル、Jリーグチームの競技力、海外でプレーする選手たちの高い実力。これらを好意的に評価しすぎると、海外の「冷静かつ客観的な厳しい視線」を見逃してしまうことがある。

 2017年が「日本サッカーは強い!」と世界に胸を張れる一年になるのを願っている。サムライブルーの最終予選突破は、そのためにも最低限かつ絶対的なノルマとなる。

©杉山拓也/文藝春秋
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