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白河 桃子
2016/03/17

ぼくらが「専業主夫」を決断した瞬間 

妻の扶養に入る男性は11万人!

source : 週刊文春 2016年3月17日号

genre : ライフ, ライフスタイル, 働き方

「稼ぐ女」が増える一方で、今、彼女たちを支える「専業主夫」も増えている。推定11万人とされる彼らはいかにして主夫の道を選んだのか? 大黒柱となった妻が抱える葛藤とは? 著書『「専業主夫」になりたい男たち』が話題の女性ジャーナリストがレポートする。

少子化など社会問題に詳しいジャーナリスト、白河桃子さん。©文藝春秋

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コストコで購入し、ママ友と分けっこするパパ

「月に1回ぐらい、近所のママ友と一緒に、車でコストコに買い物に行くんです。帰りには誰かの家に集まって、大袋入りのロールパンとか、共同で買ったものを分けっこするんですよ」
 
 都心に通勤しやすい私鉄沿線のベッドタウン。待ち合わせにチャイルドシート付きの“電動ママチャリ”で現れたのは、専業主夫歴18年の佐久間修一さん(49)。フリーのデザイナーである8歳年下の妻の扶養に入り、家事も3歳の息子の育児も一手に引き受ける。
 
 買い物事情を伺っていると冒頭の発言がとびだした。念のため説明しておくと、コストコとはミセス誌ではよく特集が組まれる、アメリカ生まれのおしゃれで安い郊外型スーパーだ。1袋の量が多いため、「分けっこ」するママ友がいるということが“幸せな専業主婦”の1条件にもなっている。

アメリカの大型スーパー、コストコ。安くておしゃれなイメージが功を奏し日本でも人気。©iStock.com

「普段は朝5時に起きて、7時台に妻が出勤、8時に子どもを園に送った後、9時から自分の朝食と洗濯、10時半には買い物タイムとなるんですが、隣町のコストコに行くときは、開店と同時に1番乗りできるように9時には出発します。買い物後はコストコ内のカフェでママ友とお茶するのがいつものパターン。180円でホットドッグにドリンク飲み放題もついてきます」
 
 一昨年、若い女性に広がる“隠れ専業主婦願望”を取材して『専業主婦になりたい女たち』を上梓した。当時、20代女性にどんな専業主婦になりたいのかと聞くと、返ってきたのがまさに「ママ友とコストコに行って、買ったものを分けっこしたい」だった。だが実際には、この不景気の時代に、優雅な専業主婦生活を送れる女性は多くはない。一方で目立ってきたのが、佐久間さんのような“専業主夫”なのである。
 
 今、専業主夫は日本に11万人いるといわれている(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」による)。正確には、働いていても年収130万円未満で、国民年金の第3号被保険者として妻の扶養に入っている男性の数だから、彼らがどれだけ家事や育児をメインに担当しているかは謎である。だがその数は、03年には8万人だったのが、08年には10万人、13年には11万人と増え続けている。

主夫を選択した理由とは?

 なぜ男性たちは、主夫を選び始めたのだろうか?

「単純に言えば、妻がオレのサラリーマン時代の年収の3倍は稼ぐようになったんですよ」

 前出の佐久間さんは、こう答える。結婚直後、難病にかかった佐久間さんは妻に別れを告げたのだという。

「ところが妻は泣きながらオレをグーでなぐって、『私が月に35(万)稼げばいいんでしょ!』と宣言したんです。その言葉通り、フリーのデザイナーの彼女はどんどん仕事を増やし、30前にはオレのサラリーマン時代の年収を超えました」

 とはいえ、昭和の男にはプライドもあった。最初は朝起きると、スーツに着替えてから、家事をしていた。

「スーツなら、スーパーで買い物中に知り合いに会っちゃっても、仕事の途中で寄りましたっていう顔ができるでしょう?(笑)お金を1円も生み出さないことに耐えられず、朝だけの清掃のバイトや内職のような仕事をしたこともありました。一方、妻は仕事が楽しくて仕方がなくて、明け方まで働くこともあった。そんな姿を見ながら考えたんです。『これだけ才能のある人なんだ。自分が働くのと、彼女をバックアップするのとどっちがいいか?』と。サポートに徹すると決心できたとき、スーツを着る自分に別れを告げるために、髪を金髪に染めました」

 3年前には子どもも生まれて、今では妻が突然ママ友をつれてくると電話してきても、あっという間に「ママ友ランチプレート」を用意できる。自宅の床は磨きぬかれ、机やたんすの角には子どもが怪我をしないように家具用クッションをつけるなど、主夫の配慮が行き届いている。


家事、育児を一手に引き受けるまでには、プライドとの葛藤が。©iStock.com

 そうはいっても「ママ友と一緒に買い物までしなくとも」と思われるかもしれない。だが、ママ友とのコミュニケーション能力が高くないと、子育ての情報は得られないのだという。

「プライドは一文にもならないからね」

 佐久間さんは主夫になるコツとして「降りる」という言葉を使う。「男性として稼がなければならない」という荷物を降ろすのだ。男性は折り合いをつけるのが上手くないから、考えすぎると精神がやられてしまう。上の世代の主夫の先輩に会うと、「どこか降りきれていないのではないか」と思うこともあるという。

「今となってはパパたちより、ママ友のほうが話が合います。財布を忘れてスーパーに行ったら男性は家に帰るでしょう? 女性は店内にママ友を見つけて借りるんです。自分もママ友に借りますね(笑)。

 本当は病気で働けなくなったとき、嫁さんと別れたら、自殺しようとまで思いつめていました。嫁さんには感謝しかありません」

会社員ではない自分を発見

 堀込泰三さん(38)は東大卒主夫、2児の父として有名な人物だ。秘密結社「主夫の友」CEOとして「責任ある地位に就く女性が30%になるなら、主夫も30%に」を目指して活動している。

「妻とは高校時代からの付き合いです。大学院の修士課程を修了後、私は自動車会社でエンジン開発に携わり、妻は理系の研究職の道に進み、結婚しました。入社4年目で妻が妊娠。ところが喜びも束の間、彼女の職場は1年更新だったので、育休をとると仕事に支障が出ることが判ったんです」

 堀込さんは「自分が育休をとれないか?」と考えた。会社の規定を読むと、育休にも時短勤務にも男女の区別はない。男性社員第1号として2年間の育休を申請。育休中には妻のアメリカ赴任が決まり、同行した。

 そして2年後、育休が終わり、堀込さんは家族と離れ、日本で単身生活となる。寂しさに耐えかね「会社を辞めたい」と言い出すと、妻に反対された。

「育休を取ったのは2人とも仕事を辞めないためだっただろうと。入社まもない男性社員に育休を取らせてくれた会社に失礼ではないかとも話し合った。後から育休をとる人に迷惑がかかるという心配もありました。

 でも2年間、ほぼ毎日一緒だった子どもと離れて暮らすのは寂しかった。育休をとった男性にしかわからない気持ちだと思います」

 妻も慣れないアメリカでの母子生活で心細い思いをしていた。アメリカは公的保育が手薄で、保育料はひと月約18万円もかかった。

 結局、「合理的判断」として堀込さんが会社を辞め、駐在妻ならぬ駐在夫となる。現在は家族で日本に戻り、育休中に翻訳の勉強をした堀込さんは、在宅の翻訳業兼主夫として生活する。

「国民健康保険の世帯主が妻だったり、妻宛の郵便物が多かったり、たまに妻の付属物のように感じてしまうこともあります。でも主夫になって“会社員ではない自分”を発見できました」

 世間が主夫に対して抱く違和感も理解できるという。

「以前、TBSで『主夫の友』の活動を取り上げていただいたとき、ゲストの泉谷しげるさんが『いや、別に悪くはないけど、なんかちょっとなあ』という反応をされていたんです。私たち主夫は、『男とはこういうもの』という固定観念を揺るがす存在。泉谷さんの反応は当然だと思います」

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