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藤原 治
2017/02/02

「電通過労死」タコツボ化する職場の問題点

電通は本当に悪いのか――元常務が過労死の背景を解き明かす #3

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : ニュース, 社会, 経済, 働き方, 企業

 元電通常務執行役員の藤原治氏が指摘した電通の特殊な企業体質(第1回第2回)。その問題点がなかなか露見しなかったのはなぜなのか――。
 背景には「タコツボ化」する職場と、ネット広告という“コントロール不能”のメディアの特性があった。
(出典:文藝春秋2017年1月号・全4回)

 深夜まで続く「反省会」

 今回の問題で、たびたび聞かれる“体育会系の風土”は悪質なルール違反を誘発しやすい。高橋さんの場合もその職場内で完結し、外部からのチェックは効いていなかったようだ。

 監視の目がない現場では、パワハラやセクハラが横行し、いじめが陰湿化しやすい。高橋さんの場合も「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」など、上司の心ない発言がネット上に記録されていた。あるいは、職場の飲み会で幹事を務めると、深夜まで「反省会」がつづいたという話が伝わっている。広告会社に特有のイベントや接待、プレゼンの練習という位置づけだ。

 私も若い頃に、体育会系の職場や親分子分の人間関係を経験し、いじめに悩んだ同期を慰めたこともあった。新人が朝早く出社して上司や先輩のデスクを拭く決まりは当時からあり、いまはなくなったが、私がいた部署では、宴会の余興は新人の裸踊りが恒例だった。私は反発して一切やらなかったが、それで仕事に支障を来したことはなかった。現在に比べると、昔の社内状況は牧歌的なところがあったのだろう。

 社内で現場が強く、さらに体育会系体質となれば、それぞれの組織の結束は強固なものになるが、各職場がタコツボ化し、横のつながりは減る。その雰囲気に馴染めればいいが、息苦しく感じる人も多いはずだ。

終わりのないクライアントの要求

 電通の現場、特に営業部門は社内で強い立場にいるが、彼らがそれによって楽に働いているわけではない。クライアント相手の営業現場が大変だからこそ社内で優遇されている面もある。

 クライアントの要求はキリがない。例えば、自分たちは何も決めずに丸投げする“おんぶにだっこ型”のクライアントには、プレゼンテーションを延々と繰り返すことになる。それでもコンペに負けてしまうと、担当者の気持ちは荒む。負けがつづくと、焦燥感で職場の雰囲気は悪くなる。それだけ負荷が高いことも、管理部門が働き方に口出しできない雰囲気をつくっているのだ。

 高橋さんの職場がネット広告を扱う部署だったことに、電通の経営陣も特別な意味を見出しているだろう。電通が直面している経営環境の変化を象徴している部署だからだ。

旧来の広告との違い

 電通は90年代まで新聞、雑誌、テレビ、ラジオの4媒体を中心に広告ビジネスを展開し、新分野としてスポーツなどのイベントを手がけるSP(セールスプロモーション)事業が加わった。そのような従来の広告メディアと、ネットの世界は大きく異なる点がいくつもある。

電通本社 ©共同通信社

 第一に、4媒体は物理的な範囲が限定されている。新聞なら全国紙、地方紙をカウントすることができ、紙面の広告スペースにも限界がある。テレビ局も数が決まっていて、1日24時間のうちCMの時間枠もほぼ把握できる。つまり、新聞もテレビもその決まった枠を埋めれば、それ以上に仕事は増えないのだ。

 ところが、ネット広告の場合は、そのような物理的な範囲がなく、広告スペースは際限なく増やすことができる。しかもグローバルなメディアだから国境もなく、その気になれば地球規模で広告ビジネスが展開できる。

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