昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

藤原 治
2017/02/03

電通こそ、新しい働き方を提案せよ

電通は本当に悪いのか――元常務が過労死の背景を解き明かす #4

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : ニュース, 社会, 経済, 働き方, 企業

 電通は1月20日に過労死自殺した高橋まつりさんの遺族とも合意、1月23日には新社長が就任した。しかし、それで「解決」としてよいのか。
 元電通常務執行役員の藤原治氏は、電通こそ新しい働き方を提案できる企業に生まれ変わって欲しいと語る。

(出典:文藝春秋2017年1月号・全4回。過去の掲載はこちら第1回第2回第3回

現行の労働法は時代にそぐわない

 私は今回の事件をきっかけに、政府をも巻き込んで、抜本的な労働法改正の動きに繋がって欲しいと考えている。

 今回の過労死認定と電通への強制捜査は労働基準法に則り、厚労省が管轄している。

 問題は、電通における「労働」と、労基法でいう「労働」との間には意味の違いがあることだ。その落差を埋めなければ、本当の問題解決はないように私には見える。

 現行の労働法は、もはや時代にそぐわない。なぜなら労働法は歴史的に現場労働者、とりわけ製造業の工場労働者を対象としてきたからだ。

 例えば、チャップリンの「モダン・タイムス」に登場するベルトコンベアー式の工場労働であれば、労働時間が仕事の成果にほぼ直結しているため、時間を基準に労務管理しやすい。製造業でもサービス業でも、モノを扱う業種には当てはまる。

 それに対して、広告会社の業務はモノがほとんど関係しない。その代わりアイディアや情報が主な商品となる。そのような業務では「成果」と「時間」の関係が密接ではない。

 例えば、3日後のプレゼンでクライアントに認められるアイディアは、いまから考えて何時間後に出るかを予測できない。5分で出るかもしれないし、2日かけて出ないこともある。人によってはとにかく時間いっぱいまで粘って考える人もいる。最終的に時間の制約によってアイディアが決まるとしても、高い成果を求めれば多くの時間を投入することになる。

過重労働撲滅特別対策班――通称「かとく」が動いた

 電通への強制捜査では、東京労働局の過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)が参加したことも注目された。

 しかし「かとく」がこれまで労基法違反で書類送検したブラック企業はドン・キホーテ、ABCマートなどの小売業や外食産業だから、電通の場合と一緒くたに考えることはできない。そうしないと、問題の本質を見誤るおそれがある。

 モノと関わらない仕事、時間で成果が測れない仕事は、電通だけでなく、これからますます増えていくと予想される。いずれ、時代にそぐわなくなった労働法は見直しを迫られることになるだろう。

 例えば「フレックスタイム制」や「裁量労働制」は、実際に導入している企業もあるが、私には「時間」の扱い方を工夫しただけで、基準が変わったわけではないように見える。それでは、高い成果を求めて長時間労働を強いる職場はいつまでも減らない。