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なぜ〈古典部〉シリーズの『愚者のエンドロール』の次に『さよなら妖精』を書いたのか――米澤穂信(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/09/13

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「〈古典部〉シリーズの千反田えると、〈小市民〉シリーズの小佐内ゆき、どちらが異性として好きですか?」

 

●これまでに書いた登場人物の中で一番のお気に入りは誰ですか。(10代女性)

米澤 登場人物に対してあまり、「気に入る」という言葉が当たらないんです。それよりもなんとか生を与えてあげたい、生きてほしいという思いで書いています。

●米澤さんは豊富な語彙力をお持ちですが、読書中に知らない単語や慣用句が出てきたら調べて自作でお使いになりますか。(20代男性)

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米澤 調べることはありますが、自分に根付いていない言葉は小説の中で使っても浮くのであまり使わないです。それが自分の中で自分の語彙として定着した時にはじめて使います。このあいだ「醇乎」という言葉を知って、いいなとは思ったんですが、まだ寝かせている段階です。

●〈古典部〉シリーズの登場人物で、ご自身といちばん性格が近いと思われるキャラクターは誰ですか。(20代男性)

米澤 福部里志です。理由は……内緒です(笑)。

●米澤先生にとって、歳を取る、もしくは成長するとはどういうことでしょうか。(20代女性)

米澤 本屋に行って、自分と関係があると思う棚が増えていくこと。昔書店員をやっていた時に感じたことです。

●米澤先生の作品は、トリックに基づいてドラマが作られるのでしょうか、あるいはドラマを描くためにミステリーがあるのでしょうか。わたし、気になります!(20代男性)

米澤 両者を融合するのが自分の目指すミステリーです。謎があって、その謎が解けた時に、登場人物の抱えていた思いや屈託みたいなものに光が当てられる、そういうものがいいミステリーだなと思います。

●プロットなど制作の初期段階では、何から作り始めるのですか。(10代男性)

米澤 商業的な言葉ですが、トータルコンセプトです。

●米澤先生が作品の構想を練る時は、どんなことをしていますか。(10代女性)

米澤 あてもなく歩きながら練っています。

●好きな映画を教えてください。(40代女性)

米澤 ぱっと浮かんだのは『ビッグ・フィッシュ』、『パンズ・ラビリンス』。もう少しあげるとしたら、『幻影師アイゼンハイム』、『ぼくのエリ』でしょうか。

●私はなりたい職業がふたつあり、進路について悩んでいます。米澤さんは小説家以外になりたいものはありましたか。(10代女性)

 

米澤 小説家に限らず、お話を作る仕事に携わりたいと思っていました。ですからデビューした後、一時期もう小説は出せないかもという状況になりましたが、絶望することはありませんでした。何らかの形でお話を作ることに関わることをすればいいと思っていましたし、どうしても小説が書きたければウェブページでも同人誌でもやればいいんですから。なので「こういうことをやりたい」というものに至る道はひとつではないと思っています。おそらくなりたい職業のどちらを選ぶべきかのヒントを求められているのかと思いますが、質問にお答えするとこういう答えになってしまいます……。

●小説家を目指しています。先生は夢を目指すにあたり、ご家族の後押しはあったのでしょうか。僕の場合、両親には進学と就職を勧められており、扶養してくれた恩を裏切りたくない気持ちもあり、悩んでいます。(10代男性)

米澤 私の場合、高校生の時に手書きで書いたポリスアクションをパソコンに打ち込んでくれたのは母なんです。ワープロのキータッチの練習だと言っていましたが、それであんな長篇を打ち込めるわけがなかったと思います。後に「もし私が歌手になりたいと言っていても応援したのか」と訊いたら「そうなる才能はないと思うから、応援はしなかったと思う。小説家としての才能があることは知っていた」と言っていました。

 進学するか迷われているようですが、上級の学校で学べるというのは小説を書く上でとても贅沢なことです。作家になってから高等教育で学ぶようなことを自分で取材しようと思ったら大変なことになる。教育があるということは、小説家になった時にものすごく強い武器になります。もちろん、教育がなくてもいい小説を書く人はいます。ですが、自分に高等教育で手に入れる知見や物の見方以上の特別な武器があると思わないのであれば、武器を手に入れるチャンスというのは、私だったら欲しいと思います。

●6歳の頃から作家になるのが夢ですが、芽が出ないまま社会人になってしまいました。この期に及んで諦められない私や同じ境遇の人にアドバイスはありませんか。(20代男性)

米澤 問題は小説家になりたいのか、小説を書きたいのか、だと思います。私は小説を書きたかった。綺麗事に聞こえますが、小説家でなかったとしても、書いていく道があればいいと思っていました。小説を書くことは誰かに許しを得ることでもないし、誰かに禁じられることでもない。書きたいものを書くのかどうか、小説家になるのはその結果だと思います。

●〈古典部〉シリーズの千反田えると、〈小市民〉シリーズの小佐内ゆきだったら、どちらが異性として好きですか。(20代男性)

米澤 彼女たちを異性として意識したことはないです。だって高校生ですよ!(笑)

●米澤さんの高校時代は何色でしたか。(10代女性)

米澤 弓道着、そして紙と鉛筆の白と黒でした。

●米澤さんは本を読む時、どのような読み方をしますか。また、内容のどこに着目して読みますか。(10代女性)

米澤 1回読んで、心に引っ掛かるものがあれば自然ともう1回読みます。着目とはちょっと違うんですが、登場人物の思いが滲み出るような場面というのは、やはり深く残るのでまた読み返すことが多いです。

●プロットと関係なく、小説の舞台にしてみたい海外の都市はありますか。また、地方都市が舞台の作品が多い理由は。(40代女性)

 

米澤 舞台にしてみたい都市はいろいろあります。魔都と呼ばれた頃の上海、カッパドキア、モンゴル帝国の首都だったのに今は何もない平原になってしまったカラコルム……。でも日本の方が多いかもしれません。地方都市が多いのは、物語が要請する舞台を選んでいるからです。

●岐阜県のどこかを観光したいと思っています。オススメの場所を教えてください。(10代女性)

米澤 10代の女の子ですか。じゃあ関ヶ原は楽しくないかな……いや、そういう決めつけはよくないですね。狭さが印象的ですよ。飛騨なら、高山の東山寺院群はどうでしょう。市が作成した遊歩道ルートが墓地の真ん中を通っていて、味があります。美濃ですと中山道の馬籠宿でしょうか。妻籠宿もいいんですが、考えてみたらこちらは長野県ですね。あとは上高地……も長野県か(笑)。

なぜ〈古典部〉シリーズの『愚者のエンドロール』の次に『さよなら妖精』を書いたのか――米澤穂信(2)

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