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日米首脳会談前に整理しておきたい 主要6紙のトランプ観

“保守おじさん”産経の面目、日経の珍説

2017/02/03
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新聞が好んだ「ディール」という言葉

『米大統領にトランプ氏』という新聞の大きな見出し。2016年11月10日の朝。

 各紙の1面を眺めると妙な気分になった。「もしかして自分は間違った世界にいるのではないか?」

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシン「デロリアン」を誰かが悪用して、世界がおかしな方向に進んでしまったような感覚。

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 そう、現実の世界ではあの大悪役「ビフ・タネン」がアメリカの大統領になってしまったのである!(映画のビフ・タネン役のモデルは80年代のドナルド・トランプ)。

 間違っているように思えても、でも現実がすべて。2月10日には安倍首相が訪米してトランプ米大統領と初の首脳会談が開かれる。

 それなら「トランプ大統領就任」報道を追ってみよう。よく出てくる言葉は何?

 まずやたら目にするのが「ディール(取引)」。

《トランプ氏が志向するのは、国際関係にビジネスを持ち込んだディール(取引)外交だ。》(東京新聞・1月22日)

《ほとんど無関係の二つの物事を利害で結びつける「取引」は、トランプ氏に関してしばしば指摘される。》(読売新聞・1月22日)

 同日の「日本経済新聞」によれば、《最近、トランプ政権の閣僚候補に会った米国防総省ブレーンはこう打ち明けられ、驚いたという。「通商や通貨問題で中国を押しまくっていく。その際、(台湾や北朝鮮といった)安全保障問題を駆け引きに使うかどうか、政権チーム内で真剣な議論が続いている》

 ああ。

 昨秋の当選直後に「トランプはビジネスマンだから、いざ就任したら現実路線を歩むのではないか」と予測していた皆さんお元気ですか。

「保守おじさん」産経の面目躍如

1月22日日曜日、朝刊各紙の1面

 トランプ報道でよく出てくる言葉。次は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」。

 内向きの国益重視のことだ。アメリカが"世界の警察"をやめるということでもある。

《死んだのは米国の高邁な理想主義であり、使命感である》と書いたのは「読売」の「編集手帳」(読売新聞・1月22日)

 そんななか1紙だけテンションが高かった。「産経新聞」である。新聞をキャラづけするなら産経は「保守おじさん」。

 産経は「『日本第一』主義でいこう」というコラムを1面に載せてきた(1月22日)

《「米国第一」主義には「日本第一」主義で対抗するしかない。日本で商売したいなら、この国に投資するのは当たり前。日本人は日本でつくった製品を買い、この国の農産物を食べよう。安全保障も米国におんぶにだっこではなく、もっと防衛力を整備しよう。もちろん、装備品は国産が原則だ。》

 威勢がいい。「日本第一主義と言っても安倍さんは米国第一主義ですよね」と茶々を入れたら叱られそうだ。

日経が真剣に書いてた「トランプ=鳩山」説

予測不能、鳩山由紀夫 ©三宅史郎/文藝春秋

 さて、私は先ほどアメリカを"世界の警察"と、引用カッコで書いたが、これはアメリカの自称であるから。

「何が世界の警察だ。ただの帝国主義じゃないか」という見方もずっとある。

 そう考える人にとってトランプはどう見えるのか。「朝日新聞」の「トランプ政権への期待」 というオリバー・ストーン監督へのインタビューが興味深かった(朝日新聞・1月24日)

 政権批判の映画を世に出し続けてきた米アカデミー賞監督が「トランプ大統領もあながち悪くない」と意外な「評価」をしている、という。

 その理由とは、

《トランプ氏は『アメリカ・ファースト(米国第一主義)』を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。》
《米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるならすばらしいことです。》

 介入主義を捨てて戦争への道を避けるならそれでいいじゃないかという意見。こういう見方をする人もいる。読み比べの醍醐味。

 ただ、トランプに対する「期待」はこのインタビューぐらい。各紙はトランプと付き合っていく大変さを心配している。

 ではどう対応すればよいのか?
「日経」は1面コラム(1月22日)を次のように締めた。

《2009年、日本では政権交代で生まれた鳩山内閣が、米軍基地問題などで迷走した。それでもオバマ政権は辛抱強く向き合い、同盟が壊れるのを防いだ。いま日本や欧州に求められているのは、同じような行動だ。》

 まわりを引っかきまわすトランプ政権だが、予測不能さにおいては鳩山政権で世界は経験済みだった!? 「日経」が真剣に書いていた「トランプ=鳩山」説であった。

 世界を困惑させるトランプは、先日はメキシコの国境に壁を建設するよう命じる大統領令を出した。

《威嚇では国際秩序は保てない》(読売社説・1月29日)

ついでに「日刊スポーツ」はトランプとサルの比較論文

©getty

「日刊スポーツ」は、トランプワード「威嚇」の秘密を紹介している。昨年2月、チンパンジーの研究で知られる南カリフォルニア大のクリストファー・ボーム教授は、トランプ氏とサルを比較した論文を発表した。

《ボスザルは騒がしく威嚇することで、集団を支配する。トランプ氏はツイッターでメディアの攻撃を続けたり、トヨタなどに「メキシコに工場を造るなら、高い関税を掛けるぞ」などと脅すのは、このボスザルの威嚇と似ているという。》(「CNNにもかみついた トランプ威嚇攻撃 ボスザル政治」日刊スポーツ・1月13日)

 私は冒頭で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のビフ・タネンがアメリカの大統領になってしまったと書いたけど、「ボスザルが大統領になってしまった」に訂正いたします。

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