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宮坂 学
2017/02/08

ヤフーが「新卒一括採用」を廃止した結果

ヤフー宮坂学社長が語る「週休3日制」の真意 #3

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : ビジネス, 働き方, 企業, 社会, 経済, ライフスタイル

個人の働き方の選択肢を増やす――。それこそが、ヤフーの宮坂学社長が目指す「働き方改革」だ(第1回第2回参照)。新幹線通勤や自転車通勤を認め、採用方式を「ポテンシャル採用」に一新。その真意を聞いた。
(出典:文藝春秋2017年1月号・全5回)

新幹線もオフィスになる

 16年9月から新幹線通勤を認め、月額15万円までの定期代を支給する制度を始めたのは、子育てや介護をしながら働く社員が増えてきたことがひとつの理由です。

 新幹線という技術革新のおかげで、東京に通勤できる範囲は広がりました。月額15万円以内で通えるのは、東海道新幹線は静岡県の静岡、上越新幹線は新潟県の越後湯沢、東北新幹線は福島県の新白河まで。これまで出張先だった地域が今では通勤圏となり、現在数十人が新幹線通勤をしています。

 ある女性社員は出産を機に静岡県に移り住み、3世代同居で子育てをしながらヤフーで働いています。東京・千代田区の会社までおよそ1時間20分。満員電車ですし詰めになっての1時間では何もできませんが、新幹線ならばゆっくり座ってパソコンを広げ、会社に到着するまでにメールのやりとりを終えることができる。出社までに一仕事終えている感覚のようです。

「介護離職」の反省

 技術の発展により、会社にいなくてもある程度仕事ができる時代になりました。いってみれば会社の「モバイル化」で、社員の居場所がそのままオフィスになる。技術を生み出す会社ですから、社員には技術の進歩を存分に活用し、生活を充実させて欲しいと思います。

 この制度を始めたのは、過去の反省からでした。以前、地元に暮らすご両親の介護を理由に、退職せざるを得なかった社員がいたのです。おそらく今後、さまざまな理由で環境に恵まれた住まいを求める社員は増えていく。十分に能力を持ちながら、距離の問題で働けなくなってしまうのは会社にとって損失でしかありません。

 また、会社から10キロ圏内に住む社員には自転車による通勤を許可し、月額5000円を支給しています。健康のためにもぜひ利用してほしいと期待しています。

開放感のある新しい食堂 ©文藝春秋

 ポテンシャル採用で応募数が数倍に

 日本企業の採用といえば長らく、年に1度、新卒のみを対象にした制度でした。これは日本独自のシステムで、ヤフーも毎年100~300人ほどの新卒を一括採用してきました。私は以前からこの方式には懐疑的で、むしろ優秀な人材には年齢や時期を問わず会社に加わってほしいと思っていました。本社の移転を機に16年10月に新卒一括採用を廃止、全職種を対象に、入社時に18歳以上で応募時に30歳以下であれば、新卒・既卒を問わず応募できる「ポテンシャル採用」を始めました。

 特徴のひとつは、既卒で既に別の会社で働いていた場合でも、希望すれば新卒の社員と同様、教育研修が受けられること。これまで新卒採用以外はすべて中途、つまり経験者採用に分類され、専門分野のスキルが求められていました。これでは現在の職場が自分に合わずに転職したいものの、まだ確固たるスキルは身に付いていない若い世代は応募しづらい。でも彼らこそ、我々が求めている人材かもしれないのです。

 たとえば、地方銀行で働く20代半ばでインターネットに関心があるような人にとって、ITの専門知識や特殊な技術が必要に見えるヤフーへの転職は、ハードルが高いかもしれません。しかし最近IT業界ではフィンテック(金融+技術)への関心が高まっており、ヤフーでも金融やリテールの知識がある人を必要としています。少しでも興味がある方には、ぜひ一度、ヤフーの門を叩いてもらいたいと願っています。

 ポテンシャル採用が始まってまだわずか2カ月ですが、現時点では昨年の数倍のペースで応募が来ています。前職も年齢もバラバラな応募者のなかにどんな才能がいるのか。想像するだけで、わくわくします。