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宮坂 学
2017/02/09

ヤフーが新オフィスに取り入れた3つの要素

ヤフー宮坂学社長が語る「週休3日制」の真意 #4

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : ビジネス, 働き方, 企業, 経済

「週休3日制」のみならず、新幹線通勤や「ポテンシャル採用」など新しい制度を次々に取り入れたヤフー(第1回第2回第3回参照)。宮坂学社長は、業績が伸びても社員の幸福度が上がらなければ、社長失格だという。楽しく前向きに働く人を増やすために作った「新しいオフィス」とは。(出典:文藝春秋2017年1月号・全5回)

幸福度が上がらない日本

 こうした改革で社の業績を上げることはもちろんですが、私が思い描いているのは、社員が幸せに働ける環境を作ることです。ヤフーが属するソフトバンクグループの企業ミッションは、「情報革命で人々を幸せに」。確かに情報革命はやってきました。でも人は本当に幸せになったのだろうかと、ときどき考え込んでしまうのです。

 振り返ってみると、20世紀は便利と幸福とが直結した時代でした。私は1967年生まれですが、我が家にカラーテレビやビデオデッキがやってきて大喜びした日のことをよく覚えています。幸せの指標がはっきりしていたのです。

 20世紀の終わりにインターネットが登場して約20年。いまや公衆電話を探す必要はなくなり、欲しいものをネットで注文すれば翌日には家に届く。20年前の生活に戻りたいという人はほとんどいません。しかし残念ながら、日本人の幸福感が伸びていないことは、調査結果にはっきり表れていると聞きます。どうすれば、日本人の幸福度が上がるのでしょうか。

社員の幸福度が上がる働き方とは

 ひとつのヒントが働き方です。これから平均寿命が伸びれば、定年が延長され、人生に占める労働時間も長くなるかもしれません。むろん仕事が人生のすべてではありませんが、幸せな働き方が実現すれば、人生の幸福度も高まるはず。その点で、経営者は社員だけでなく日本人の幸福度に少なからず責任を負う立場にあると考えています。

 たとえ業績が伸びても、社員の幸福度がマイナスになれば、間違いなく社長失格です。目指すのは、社員の幸福度が前年を上回り、業績も追随してくれること。残念ながら幸福度を測る術はありませんが、少しでも読み解きたい。それは有休取得率かもしれないし、心身のコンディショニングかもしれません。出勤ボタンの横に「今日は頑張った」「今日は疲れた」とボタンをつけて、帰る時に押してもらってもいい(笑)。制度を変えることで楽しく前向きに働く人が増えれば、結果として業績の向上につながっていくはずです。

いつまでも未完成で進化し続けるオフィス

会話が生まれるようジグザグに配置された机 ©文藝春秋

 ヤフーは情報技術の会社なので、2016年の秋に社屋を移転するときに、テクノロジーを最大限に生かした職場環境作りも始めました。

 新オフィスで重視したポイントは3つ。ひとつは「ハッカブル」。IT用語の「ハック」をもじった言葉で、いつまでも未完成で進化し続けるオフィスを意味します。

会話が生まれるレイアウト

 そしてもうひとつが「情報の交差点」を増やすこと。よく社内で「会社は何のためにあるのか」と議論するのですが、私が持っているイメージのひとつは、仲間と話をしてお互いをよく知る場所です。大切なのは会議より会話。同じメンバーと話してばかりではアイデアが枯渇するので、知らない人間と出会うことができるよう、新オフィスでは固定席を一切定めず、全社員がどこで仕事をしてもいいフリーアドレス制度を取り入れました。

 社員は自分のロッカーに荷物を入れたら、パソコンを持って20あるフロアの好きな場所で仕事ができる。なかには朝8時のオープンと同時に社員食堂に陣取り、夜まで働いている社員もいます。

 各フロアの机はあえて直線的には配置せず、ジグザグにレイアウト。歩いていれば思わぬ人と出会って会話が始まる仕組みです。寝そべって作業できるスペースも設けました。最初は戸惑う人が目立ちましたし、「部下の場所がわからないとマネジメントできない」などと反対する意見もありました。でも、まだ始めて2カ月ほど。誰もが諸手を上げて賛成する改革などあり得ません。フリーアドレスですが社員は全員iPhoneを持ち、位置情報によって社内の居場所が把握できるシステムになっているので、必要があれば足を運べばいいのです。

 新しいオフィスになって、ずいぶん社内がにぎやかになったと感じます。以前は個人の机がパーティションで仕切られ、隣の席の人ともメールでやりとりをしていた人もいるのですから格段の進歩です。もちろん私もフリーアドレスですが、社長が隣に来て喜ぶ社員はいないでしょう(笑)。あまり別のフロアには行かないことにしています。

心身のコンディショニングにも投資を

 3つ目は「グッドコンディション」。AIが単純労働を担う時代、社員に求められるのは心と脳の稼働率を上げること。従来、会社は社員のスキル向上に投資をしてきましたが、今後は新しいアイデアにつながる、心身のコンディショニングにも投資を行います。

 社員の心身を健康な状態に保つことは最低限の目標です。自分が経営している会社で過労死する社員など絶対につくりたくない。「CCO(チーフ・コンディショニング・オフィサー)」という役を作って自ら就き、健康な社員の習慣を見つけて、他の社員に応用できるようにしたいと考えています。

社員食堂で健康診断ができる日も近い? ©文藝春秋

 また、社員食堂で使用する皿はすべてに無線タグをつけているので、いずれは総カロリーや塩分、栄養価などの履歴を自分でいつでも確認できるようにしたい。いまはまだデータが蓄積されていないので無理ですが、10年くらい経てば健康診断の結果との因果関係が見えてくるかもしれません。