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特集
芥川賞直木賞 作家の素顔 受賞者、候補者、選考委員。それぞれのドラマ

新選考委員・吉田修一が語る「文学の図太さ」【前編】

デビューから20年。1月19日、初めて芥川賞の選考委員として選考に臨んだ作家・吉田修一氏が、作家と作家が火花を散らす熱戦の臨場感を生々しく語った。(全2回、出典:2017年3月号 文學界)

スポーツ観戦のように興奮していた

――今回から芥川賞の選考委員に加わられました。吉田さんが「パーク・ライフ」で芥川賞を受賞された2002年(第127回)当時、選考委員の中で一番お若かったのは村上龍さんで、50歳でした。  

吉田 そうですか。15年前ですね。

――村上さんは第123回から選考委員を務められていますが、就任時は48歳5カ月。吉田さんはいま48歳4カ月で、村上さんが就任された時とほぼ同じですが、その感慨はいかがでしょうか。  

吉田 選考会後の記者会見でも聞かれたので話したんですけど、選考委員に村上龍さんや宮本輝さんという、自分が子どもの時から知っている作家が目の前に座っていることに興奮しました。村上さんも宮本さんも、お会いするのは初めてだったんです。村上さんは2作目の『熱帯魚』くらいから単行本の帯に推薦文をいただいたりしていたので、いつかお会いしてお礼を言おうと思いつつ……。選考会はすごく静かな雰囲気でしたが、僕は内心1人興奮していました。かぶりつきでスポーツ観戦をしているような、最後までそんな感覚でした。

――さらに言えば、山田詠美さんと島田雅彦さんと奥泉光さんは、吉田さんが「最後の息子」で文學界新人賞を受賞された時(1997年)の選考委員ですね。  

吉田 そうなんです。奥泉さんの評価はバツでしたけれど。山田さんと島田さん、そして同じく選考委員でいらした浅田(彰)さんや辻原(登)さんが認めて下さらなかったら、僕は芥川賞選考会の場にいるどころか、作家にもなれていないだろうし。そういう意味で言うと、やっぱり感慨深いですね。20年近く前に選んでいただいた方たちが目の前にいて、そこに自分が仲間入りさせてもらったのは、本当に感慨深いです。

選考会の会場となる料亭「新喜楽」 ©文藝春秋

作家10人が一堂に会す迫力

――会場の新喜楽自体も初めてですよね。あの空間はいかがでしたか?  

吉田 今になって振り返ってみると緊張というより、やっぱり一人盛り上がってる感じがあって。新喜楽の床の間の前にある金屏風はやっぱり、芥川賞の選考会場というイメージそのものですし。この前、京都の祇園のお茶屋に、取材で連れて行ってもらったんです。そこもちゃんとしたお座敷で、舞妓さんと芸妓さんが来てくれたりもしたんですけど、僕らなんかが行ったところで、祇園のお座敷という場所のオーラのほうが勝ってしまう。ところが芥川賞の場合、新喜楽のようなものすごい料亭でも、いらっしゃる作家の方が勝つんだな、と思いました。場に位負けしないというか。まあ、僕自身の事は脇に置いて、ですが。1階(芥川賞選考会場)から2階(直木賞会場)に就任のごあいさつに行った時にも、選考委員の皆さんがズラッと並んでいらっしゃって、重厚感がすごかった。他の文学賞に比べて選考委員の人数が多いせいもあるんでしょうか。10人って、やっぱり相当な迫力です。僕はもともと、文学賞のパーティーにはほぼゼロに近いぐらい行かないんです。島田さんとちゃんとお話ししたのも、実は20年前の新人賞以来だと思う。自分も作家とはいえ、普段会わない作家にまとめて会ったので、そのインパクトがすごかったですね。

第156回芥川賞選考会にて。一番左が吉田氏。 ©文藝春秋

「料理、いつの間にこんなに来てたんだ」

――選考の前、最初に献杯するのが恒例ですが、お酒が出る事にはどう思われましたか?  

吉田 食事も出されますしね。……でも緊張というより、興奮していたんだと思うんですが、途中、料理の皿がたまってしまうまで、料理が出ていることをあまり認識してなかったんです。で、あんまりたまってきて仲居さんがちょっと困っていらして、「あ、もう下げてもらって大丈夫です」って言った時に、「料理、いつの間にこんなに来てたんだ」っていうのに気付いたくらいです。

――選考でどういう意見を言おうかというのと、他の選考委員の意見を聞くのに集中していたということですよね。  

吉田 そうですね。ただ今回は自分の意見をどう上手く表現しようかというところまでは気が廻らなかった気がします。文學界新人賞の選考委員をやっている時と同じように、自分が読んで感じたことをそのまま言えばいいと思っていました。それよりも、新喜楽という場所でああいう方々が何を話すのかには、やっぱり興味がありました。選考会もそうだし、その前の雑談も面白かったです。最初に新喜楽に入った時に堀江(敏幸)さんがいらして。お会いしたのは初めてなんですが、少しだけお話しして、本当に少しだけだったんですが、なんか歓迎されているような気持ちにさせてもらえて、ありがたかったです。小川(洋子)さんも初めて、川上(弘美)さんも十数年ぶり。髙樹(のぶ子)さんも芥川賞の授賞式以来だと思います。だから、他の選考委員の姿をずっと見ていたというか……選考に参加しているというよりは、選考会を一番前でこうやって(身を乗り出して)見ている感じだったような気がします。

 今回は自分がマルを付けた山下(澄人)さんの作品が、最初から評価が高かったので、少し気が楽でした。新人の選考委員は真っ先にマルバツを言わなきゃいけない。選考会の後、堀江さんが「吉田さん、最初からバツって言いましたよね。自分は、記憶がはっきりしてないんだけど、最初の時に迷ってサンカクって言っちゃった気がするんですよ」っておっしゃっていて。「最初にバツっていうのはやっぱりすごく勇気が要るから」と。  

 自分がどう見られるかというよりは、もう、先輩方を見よう見ようとしてたと思います。次回からまた少しずつ慣れてくるんでしょうけれど。

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