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石坂 泰章
2017/02/08

金ピカ大好き! 巨匠ウォーホルも首をかしげたトランプのアートセンス

父とは真逆、イヴァンカは現代アートの目利きコレクター

 安倍首相とトランプ次期大統領(当時)との固い握手こそが、すべてを物語っていた。日米関係ではない。トランプの秀吉顔負けの黄金趣味だ。会談の舞台となった私邸の応接間は金一色で、一瞬クレムリンからの中継かと錯覚させた。もっとも、それは王朝の優雅さをたたえるクレムリンに対して失礼というものだが……。

現代アートの巨匠の作品に「色彩が足りない」と不満

 そもそもトランプはアートに興味がない。口さがない向きは、彼の著書の題名「The Art of the Deal」(取引のアート)が、アートとの唯一の接点だとまでいう。ルノアールを一点持っているという話は耳にするが、ギャラリー、オークション界では無名の存在である。ビリオネアにしては珍しいことだ。美術館に対する慈善事業でもその名前は上がってこない。

 2013年、ワシントンポストの取材に「私の友人は絵画にあまりにも法外のお金を費やしている。私だったら、むしろこのワシントンの新しいホテル(著者註:ホワイトハウスの目と鼻の先に昨年完成した一泊9万円の「トランプ・インターナショナル・ホテル」のこと)のように世界中の人々を喜ばせる仕事をするね」と語ったように、彼にとっては建築こそがアートなのである。

 そんなトランプも、1981年にポップアートの巨匠アンディー・ウォーホルを訪ね、トランプタワーのシルクスクリーン制作を依頼する寸前までいったことがある。ウォーホルの日記によると、黒、銀、金からなる試作の「色彩が足りない」のがトランプにはお気に召さなかったようだ。ウォーホルは、そんなトランプを「ちょっとチープだと思う」とこき下ろしている。その試作の一点は現在ウォーホル美術館にある。

イヴァンカ所有のアートは5倍に急騰、一方父のは……

 父と真逆にいるのが、デザイナーでもある娘のイヴァンカ。現代美術の熱心なコレクターとして知られる。夫と意見が一致し、気に入った作品しか購入しないと公言し、アート好きな一面を覗かせるが、父のおかげで一部のアーティストにはインスタグラムで「頼むから俺の絵と一緒に写真を撮らないでくれ」と毒づかれる始末。 

 一方、皮肉なことに、来訪者に絵のサインと価格だけを自慢する父の所持している中程度のルノアール作品の価格がよくて横ばいの10億円なのに対して、イヴァンカが気に入っているジョー・ブラッドレーのような中堅有望作家の作品は、過去5年間に5倍弱ほど値上がりし3億円にもなっている。

もはやキラキラではなくギラギラ? 安倍・トランプ会談 ©ロイター=共同

トランプ政権の意外な大物名画コレクターは?

 トランプ政権の資産公開で、1470万ドル(約16億円)で落札された絵画の部分所有権を500万~2500万ドル(5.5~27.5億円)と申告したのは、ゴールドマン・サックス出身の財務長官スティーブン・ムニューチン。

 その父ロバートは、世界屈指の現代美術ギャラリーのオーナーとして数十億円単位の絵画を取引、所有している。その生き方がカッコイイ。息子同様ゴールドマンのパートナーであったロバートは、引退前の1990年頃には870万ドルの年収を誇る伝説のディーラー。それが引退後一転してニューヨークでギャラリーを立ち上げ、瞬く間にその世界でも頂点を極めた。

 さらにコネチカットでは小ホテル、メイフラワー・イン(現在のメイフラワー・イン&スパ)を手に入れて改装。数々の雑誌にも取り上げられ、最近まで経営していた。筆者は90年代に同氏のギャラリーと取引し、メイフラワー・インにも泊ったことがあるが、その趣味の良さにはただただ脱帽したものだ。証券界の大物が感性の世界でも成功を収める──ニューヨークならではの話である。

NEA(全米芸術基金)の廃止という懸念の現実味

 このようにアート面でも多士済々のトランプ政権が、今後どのような道を歩むかは大いに見物だ。なんといっても、トランプは強大な権限を持つアメリカ大統領。就任後、執務室のカーテンが赤から金に取り替えられ、ホワイトハウスの「黄金化」は着々と進んでいるが、アート界に対する影響も気になるところだ。

 もっとも懸念されているのが、文化団体、事業に助成金を提供するNEA(全米芸術基金)の廃止である。180億円くらいの年間予算規模で、国家レベルではそう大きくないが、ここからは多くのアーティストが巣立っている。いわば、アート界のベンチャーファンドだ。

 大統領当選後に映画「ロッキー」のシルベスター・スタローンがNEA会長候補と報じられたのはご愛敬ですむが、残念ながら廃止の可能性は極めて高い。初めて文楽を見て「もう二度と見にいかない」と酷評したことのある某大都市市長が文楽協会への補助金凍結を打ち出した騒ぎを思い出す。 

 とはいえ、地方分権型、民間主体のアメリカの文化行政では、NEA廃止の影響はそれほど大きくはないだろう。それよりも、むしろ美術館への寄付に対する優遇措置の廃止や、海外からのアーティストにとっては、ビザの厳格化の方が影響が大きい。

 これからも“秀吉トランプ”の一挙手一投足から目が離せない。