文春オンライン

小説を書くことって、不安で、孤独なんです。それを引き受けるのが作家の義務だと思います――吉田修一(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/05/01

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「どうしてそんなに女性の心が分かるのでしょうか」(30代女性)

 

●文章を考えたり創作する時に、何をいちばん大切にされていますか。またはどういったところを心掛けたり考えながら創作活動をされていますか。(20代女性)

吉田 さっきの話につなげると、やっぱり一人でいるというか、一人で在(あ)る、ということかな。今は一人with猫ですけれど。2匹います。

●『静かな爆弾』(08年刊/のち中公文庫)、『初恋温泉』など、聴覚に障害を持った登場人物がいますが、そういう方がおられたのですか。(20代女性)

ADVERTISEMENT

静かな爆弾 (中公文庫)

吉田 修一(著)

中央公論新社
2011年3月23日 発売

購入する

初恋温泉 (集英社文庫)

吉田 修一(著)

集英社
2009年5月20日 発売

購入する

吉田 実際にはいないです。いないですけれどなぜ書いたかというと、ちょっと不謹慎ですが、音が聞こえない世界に憧れがあるんです。だから、その世界のことが知りたくて書くことが多いです。なんで憧れるんだろう。

●吉田さんの小説はタイトルが秀逸なのも魅力のひとつだと思っているんですけれども、ぱっとひらめくものなのでしょうか。気に入っているタイトルがありましたら教えてください。(40代女性)

吉田 どうやって決めたかはそれぞれの作品によりますね。ひらめく時もあるし、悩む時もありますし。気に入っているタイトルは『路(ルウ)』でしょうか。

●本を書くにあたり、何かにインスピレーションを受けて書きますか? テーマを決めて書きますか?(30代女性)

吉田 これはさっきも話したことですが、場所ですね。テーマというよりは舞台となる場所がさきにあって、そこから登場人物などが決まっていきます。

●『パーク・ライフ』や『横道世之介』のような青春物語もあれば、『悪人』や『怒り』のようなダークな作品もある。わりと振れ幅が大きいですが、ご自身ではそのへんはどう感じてらっしゃいますか。(30代女性)

パーク・ライフ (文春文庫)

吉田 修一(著)

文藝春秋
2004年10月 発売

購入する

吉田 幅を広げてやろうというわけではなくて、こういう人間を書きたいと思った時に、それに相応しい雰囲気や文体の小説になります。どういう作品を書こうかというよりも、誰を書きたいかということだと思います。

●これまで数々の作品が映像化され、ご自身も『悪人』の脚本も共同執筆されていますが、原作者として、映像化の条件とされていることはございますか。(40代女性)

吉田 基本はないんですけれども、原作よりも面白くしてほしいなとは思います。それはいつも言っていますね。そのために原作を変えるということに関しては、まったく問題ありません。

●今なら書けると思った気分になって小説を書き始めますが、すぐに行き詰り、何時間も1行も書けずにいることがよくあります。なにか分かりやすくモチベーションになることがあればいいと思いますが、そんなことを期待している時点で、自分には小説を書く資格はないのでしょうか。(20代男性)

吉田 何時間も1行も書けずにいるということが、イコール小説を書くということだと思うので、もう書いているじゃないですか。

●吉田先生の作品に登場する女性たちの描写がとても共感できるんですが、どうしてそんなに女性の心が分かるのでしょうか。参考にされているものがあれば教えてください。(30代女性)

吉田 これは、分かっていないので書けるんだと思います。じゃあ男だから男のことが分かっているかというと、分かっていないから書けるんだと思う。もっと言うと、男って実際には誰のことを差すのか分からないし、女というのもまた同じ。要するに100人いれば、100通りの男や女がいるわけですからね。

●小説に出てくる場所が、ものすごく鮮やかに描かれていて読むたびにハッとさせられます。ストーリーもさることながら、景色が圧倒的に迫ってきます。倉本聰さんのドラマを見て同じように感じたのですが、吉田さんも倉本さんのドラマがお好きなのでしょうか。(40代女性)

吉田 ドラマはそんなに熱心に見てはいませんでした。天邪鬼的な言い方になってしまうんですが、書かないという方法が場所を描けるんだな、というのがなんとなくこの20年で分かってきたところです。

 説明しない、ということです。例えば今僕たちがいる応接室を描こうとしたときに、真ん中にこういう絨毯があって、とか、広さは縦が何メートルで、というのを描かずに、会話と日差しだけを書いたほうが、その場所がうまく浮かんでくる。だから、鮮やかに描かれていると感じてくださるとしたら、それは描かれていないからだと思います。

小説を書くことって、不安で、孤独なんです。それを引き受けるのが作家の義務だと思います――吉田修一(2)

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事