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燃え殻さんが大根さんに聞いてみた。#1

「自分で言いたいこと」がなくて悩んでいます

2017/02/13

32、3歳までは「受注仕事」ばっかりだった

燃え殻 長年テレビの美術制作会社で働いてきて、自主性や個性みたいなものを殺しながら生きてきたんですよね。発注仕事を淡々とこなして、人生が終わっていくものだと思っていた。それが、なぜかものを書いたりするようになって、しかもその書いたものについて「どうしてこういう作品を書いたのですか?」などと人に聞かれるようなことになって……。

大根 その状況に戸惑っている、と。

燃え殻 今日、大根さんに相談したかったのは、僕は「自分の言いたいこと」がほとんどない人間で、それがすごくコンプレックスなんです。しかも、そんな人間が小説なんてものを書いていいのだろうかと悩んでいまして。

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大根 というか、俺も燃え殻さんに、まったく同じような相談をしたいですけどね。

燃え殻 え! いやいや、そんなことはないでしょう。

大根 いや、本当に。俺は最初はテレビ業界でADをやっていて、25歳くらいでディレクターになって……今は、多少他人様に知られる作品を作れるようになりましたけど、やはり32、3歳くらいまでは、いわゆる受注仕事ばかりで、来た仕事を右から左に流すような、そんな仕事のやり方でした。まあ、真面目にやってはいたけれども。

燃え殻 じっさいテレビだと、それが普通だったりもしますしね。

大根 クイズ番組、旅番組、情報番組……いろいろやっていましたが、ディレクターとして個性を発揮できるような番組も作品も全然なかった。たまに師匠である堤幸彦のおこぼれで、ちょっとドラマをやったりもしましたが、堤の劣化コピーみたいなものしか作れなくて、向いてるんだか向いていないんだか、それすらわからなかった。

俺も、自信とかそんなの持ってない人間なんですよ

燃え殻 そんななかで、「いけるぞ」みたいに思った瞬間があったのですか?

大根 90年代後半にネットが一般化して、うちの会社もホームページを立ち上げることになり、堤や俺がブログを書くことになったんです。「書くことねぇなぁ」とか思っていたのに、いざ始めてみたら、これがすげぇ書くことあるんですよ(笑)。あと、その前段階として、97年くらいから始めていたEメールも、文字を打つことの面白さに開眼したという意味では大きかった。その時は、友達に自分の書いたエロ小説を送りつけていたんです。しかも、その友達が主人公の(笑)。

燃え殻 わはは。

大根 で、そのブログを見た『SPA!』の編集者が「大根さんの文章面白いんで、コラム書けますよ」と言ってくれて、それをきっかけに雑誌にちょくちょく書くようになりました。「書ける」と言ってもらったことで、自分でも「そうか、俺は書けるのか」と自覚した格好です。

燃え殻 他人に「書ける」と言われて初めて、自分が書けるということを意識した。僕もまったく一緒です。

大根 その流れで「脚本も書けますよね」みたいな話があって、ドラマの脚本を書くようになり、それが自分の個性を出した深夜ドラマや映画に繋がっていった。

――それまでは「自分」を出す場所がなかったけど、場所ができたことで発露した、と。

大根 そうなのかもしれませんね。そんなだから俺も、自信とかそんなの持っていない人間なんですよ。

燃え殻 今もですか?

大根 もちろん今も。全然自分を映画監督だと思っていませんし。

燃え殻 橋口亮輔監督の映画『恋人たち』に、「僕が自ら映画監督を名乗らないのは、橋口監督のような人がいるからです。 こんな映画を作る人と自分が同じ職業なわけがない!」というコメントをされていたのが印象に残っています。

大根 たぶん、一生そう思っているんじゃないかな。

燃え殻 そうですか。大根さんクラスでさえも、そんな感じとは。いやはや……。

大根 いやー、そんなもんですよ。

大根仁 おおねひとし  1968年生まれ。東京都出身。ADとしてキャリアをスタートさせ、2010年、ドラマ『モテキ』(テレビ東京系)でブレイク。その後、11年に映画『モテキ』、15年『バクマン。』、16年『SCOOP!』とヒット作を連発。次回作『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』は、17年9月に公開予定。

燃え殻 もえがら 1973年生まれ。テレビ美術制作会社で企画、人事担当。新規事業部立ち上げの際に、日報代わりに始めたTwitterが、現在フォロワー数8万人を超えるアカウントになる。cakesで連載した『ボクたちはみんな大人になれなかった』が単行本として刊行予定。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

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