文春オンライン

大根仁×燃え殼「くすぶっている人たちへの“ブレない”方法」

燃え殻さんが大根さんに聞いてみた。#3

2017/02/15
note

『モテキ』のドラマはクラブイベント、映画はドーム公演

大根 燃え殻さんは正直、映画の『モテキ』はそんなに好きじゃないでしょ?

燃え殻 うーん、テレビ版の方が好きですね。……って、そんなこと正直に言っていいですか?(笑)

大根 いいですよ、気持ちはわかるし。映画の『モテキ』に関しては、自覚的にああいう作品にしたところがあって。ドラマの方が面白いといえば、そうなんですよ。ドラマ版は、言うなればクラブイベントみたい感じで、映画は、思いっきりドーム興行だということを意識して作ったんです。

ADVERTISEMENT

燃え殻 あぁ、そのニュアンスはよくわかります。でも、映画も嫌いではないですよ、本当に。

大根 俺も嫌いじゃないんだけど、心根の部分ではドラマ版の方が好きかな。イメージとしては、ドラマは恵比寿「リキッドルーム」くらいの規模のクラブイベント。あの会場の、一番後ろの方の人たちにまで届けるのは簡単とは言えないまでも、できる。でも、映画の『モテキ』は、東京ドームの一番後ろの人たちにまで届かせないといけない。だから、相当セルアウトはしましたよ。でもね、お祭りだから、成功させなきゃ意味がない。そこに関する批判は甘んじて受けますよ。あとね、山下達郎さんが良いこと言っているんですよ。「500人の客に届けられる人は、5万人相手でも届けられる。でもその逆はできない」って。これ、俺の信条です(笑)。

燃え殻 大根さんが「ブレないな」と思ったのが、『SCOOP!』のエンディングにTOKYO No.1 SOUL SETを使ったじゃないですか。今って、洋画のエンディングに、ぜんぜん関係ない日本のアーティストの曲が、おそらく「売れているから」という理由だけで起用されたりしますよね。そんな時代にあって、あの選択には驚かされました。

――でも、あの規模の映画になると「エンディングにはこれ使ってください」的に押し込まれたりすることはないのですか?

大根 俺の場合、深夜ドラマをやっていた時から、音楽はずっと自分で選んでいたので、「そこはこっちに任せてね」というのが基本スタンスになっているんです。「こいつから音楽抜いたら何もねぇぞ」と思われて、放っておかれているだけかもしれないけど(笑)。

燃え殻 大根さんには絶対音感ならぬ「絶対センス」みたいなのがあって、僕はそこを信じているので、何が来ても「あぁ、もうこれしかないよね」って思ってしまう。でも、かといってクローズドなものを作っているわけではないところが、すごいところ。つまり、サブカル的な「俺だけが知っている」感を維持したまま、ドーム興行ができる。そして、その結果、大根さんの作品は「この良さをわかるのは俺しかいない」という僕みたいなヤツらが集まれる場所になっているというか。それがたぶん、大根さんが発明したものとしては大きいのではないでしょうか。

大根 あまり悪い気しないですね、そういうふうに言っていただけるのは(笑)。

自分には「見たいもの」があるだけなんです

――でも、サブカルの人にも認められて、そうじゃない人にも認められるというのは、本当に難しいことだと思います。大抵、どちらかに嫌われるわけで。

大根 だからまあ、あまりご立派にならないようにはしてますけどね。でも、基本姿勢として、意識は常にオーディエンス側にあるというか、「作る」よりも「見ている」という意識の方が強い。別に自分から発したいメッセージとかがあるわけでもない。自分には、ただ「見たいもの」があるだけなんです。

――見たいものがないから、じゃあ自分が作りましょう、と。

大根 そうです、そうです。

――それって、ある意味、燃え殻さんの悩みである「何も言いたいこととかないけれど、小説を書くことになって、自分をネタにとりあえず1作は書けたけど、この先どうしたらいいのか」の答えになっているかもしれないですね。

燃え殻 まさに、そうだと思います。

大根 燃え殻さんも、まだまだ「青春の溜め」っていう貯金がありそうだし、大丈夫な気がしますよ(笑)。それを切り売りして、いろいろその都度感じたことをまぶしていきつつ、自分の読みたいものを書いていけば何とかなりますよ。これからもテレビの美術制作の仕事は続けながら、書き続けていく感じですか?

燃え殻 そうですね。

――会社を辞めて、筆一本で生きて行く的な道は考えたりしますか?

燃え殻 辞めないです、絶対(笑)。書く方は、需要があればというか、これまで通り「何か書け」と言われれば書くスタンスですね。

――大根さんは、次の映画が渋谷直角さん原作の『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』ですね。

大根 はい。今年(17年)の9月公開です。この作品でね、世の男どもを全員地獄に叩き落してやりますよ(笑)。

燃え殻 ああ……怖いけど楽しみです。今日は、貴重なお話を本当にありがとうございました。

大根 こちらこそ、ありがとうございました。小説が出るの、楽しみにしてます。

大根仁 おおねひとし  1968年生まれ。東京都出身。ADとしてキャリアをスタートさせ、2010年、ドラマ『モテキ』(テレビ東京系)でブレイク。その後、11年に映画『モテキ』、15年『バクマン。』、16年『SCOOP!』とヒット作を連発。次回作『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』は、17年9月に公開予定。

燃え殻 もえがら 1973年生まれ。テレビ美術制作会社で企画、人事担当。新規事業部立ち上げの際に、日報代わりに始めたTwitterが、現在フォロワー数8万人を超えるアカウントになる。cakesで連載した『ボクたちはみんな大人になれなかった』が単行本として刊行予定。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

大根仁×燃え殼「くすぶっている人たちへの“ブレない”方法」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー