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日本人はトランプとロシアの関係をもっと知るべき

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▼〈NATOをこき下ろすトランプ プーチン「拡大」に脅える欧州〉『Wedge』1月号(筆者=木村正人)

 雑誌「Wedge」一月号に掲載された、ジャーナリスト木村正人氏による記事「NATOをこき下ろすトランプ プーチン『拡大』に脅える欧州」を読んだのは、新幹線の中。前日に私が「スカパー!」の報道番組「ニュースザップ」で語った内容とそっくり重複していた。

モーリー・ロバートソン氏

 木村氏はこう指摘する。トランプ氏は〈NATO(北大西洋条約機構)を「時代遅れ」「金食い虫」とこき下ろし〉ているので、トランプ政権下でNATOの役割が「アメリカにとって損だ」と判定されてしまった場合、真っ先に危機が及び、〈火が吹く恐れが強まる〉のは〈ロシアと国境を接するバルト三国〉だ、と。

 リトアニアとポーランド、バルト海に囲まれるロシアの飛び地「カリーニングラード」。ロシアの重要な不凍港であり、バルト艦隊の拠点だ。11月下旬までにロシア軍は対艦ミサイルと核弾頭を搭載可能なミサイルをカリーニングラードに配備。ロシアは今、露骨にNATOを圧迫する動きを見せているのだ。

 トランプ新政権を分析するうえで、「カリーニングラード」の重要性を日本のテレビ番組で語っても、残念ながら皆にきょとんとされてしまう。私はその“アウェイ感”と戦い続けることが多いだけに、木村氏の記事の冒頭を読んだ時点で、思わず手を叩きそうになった。

 リトアニアではすでに「軍事侵攻された場合、市民がどのように身を守ればいいか」を詳細に解説するパンフレットを国民に支給し、「万策尽きてもロシア軍には協力せず徹底的にサボタージュせよ」と指示している。また、ラトビアとエストニアにはロシア系住民が多く、その人口比率はウクライナより高い。プーチン大統領がウクライナと同様、「ロシア系住民の安全を守るため」という名目で軍事侵攻を行う条件は揃っている。

 トランプ氏には、ロシアによってグルーミング(毛づくろい)された“協力者”である可能性、さらにロシア語で言うところのコンプロマート(弱み)を握られている可能性までも浮上している。実際、トランプ氏は、早々にプーチン大統領と電話会談した。だからこそ、トランプ政権は欧州にとって脅威なのだ。

 木村氏は、欧州を覆うポピュリズムがトランプ政権やロシアと連携して増長するリスクを指摘する。実際、欧州各国の極右政党はEUを解体し、各国を孤立主義、保護主義、排外主義で固めて実権を掌握したいと考え、米露の蜜月を追い風に、国境を超えた選挙協力まで画策している。「インターナショナルなナショナリズム」という不思議な組み合わせである。そして、それはロシアの長期的な国益に適っている。いや、適い過ぎている。

 ポピュリズムは遠くEUやアメリカだけで吹き荒れているわけではない。日本にもじわじわと気配は立ち込めている。昨今、話題になったアパホテルに置かれていた「南京大虐殺」を否定する書籍が火種になる可能性だって十分ある。

 海外のことを知らず、意識せず、干渉せず。外国からは歴史認識に干渉されたくない――日本によるこうした“棲み分け”はかつて「ガラパゴス」と呼ばれた。それでよかった。しかし、今「ガラパゴス」の壁は消失した。アパホテルの一件を取ってみても、誇り高い孤立の道を選び、外国への「壁」を建設するのか、それとも国際社会の納得を広く勝ち取る雄弁なディベートを発信するのか。日本人はどちらかを選ばなくてはならない。

 だからこそ日本人には、NATO、バルト三国、カリーニングラード、ロシア、EUの極右政党、トランプ政権を一本の線で結べる思考力が求められる。木村氏に「まともなジャーナリズム」を見た。

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