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連載尾木のママで

尾木 直樹
2017/02/10

稀勢の里の背中に見た「相撲道」

イラスト 中村紋子

 大相撲初場所の十四日目、ボクは忙しくてホテルに泊まりこんでいたの。肩が凝ってマッサージをお願いしたのが夕方五時ころ。ほぐされながら相撲中継を観ていると出てきたのが稀勢の里。ボウッと眺めていたら見事な寄り切りで逸ノ城に勝った! その後、白鵬が貴ノ岩に負けて彼の優勝が決まったのはご存知のとおり。でもその時点では、正直まだこう思っていたわ。「たぶん横綱にはなれるけど、明日の千秋楽ではどうせ白鵬に負けるんだろうな」。

 準優勝経験十二回で昨年の年間最多勝力士。でも肝心なところで星を落とす彼に期待しない癖がついていたのね。ところが、カメラが支度部屋の稀勢の里を写した時、後ろ姿だけだったけど、ボクの目には、背中に彼の涙が透けて見えたのよ! こんな経験は初めて。日本出身の、真に横綱にふさわしい力士、それが稀勢の里なんだと実感したの。千秋楽では白鵬を土俵際で下して、今までにない強さを見せてくれたのも嬉しかった。

「角界の風紀委員」と呼ばれるほど生真面目で素行のいい彼のファン層は厚く、特に年配女性と子供達の人気が圧倒的。子供って本能的に人柄を見抜くから、稀勢の里の“人の良さ”を感じとっているのかも。女性にとっては彼の「弱さ」こそが魅力。母性本能をくすぐられるの(笑)。アスリートとしてとにかく強い、モンゴル出身の力士達とは対照的ね。

1月27日、奉納土俵入りで雲竜型を披露する稀勢の里 ©共同通信社

 ボクが稀勢の里の姿から感じとったのは「相撲道」。勝っても相手の力士に失礼だからあからさまには喜ばない。横綱の白い綱の向こうはカミの領域で、土俵入りは本来神事である、ということを思い出させてくれる存在なのよ。明治神宮の奉納土俵入りには、史上二番目の一万八千人もが集まったわ。相撲を通じて日本をアピールしていく重要な契機になるかも。ボク、断然応援するわ!

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