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「認知症」の診断を受ける その前に知っておくべきこと

もの忘れと聞こえ特集

認知症はもはや、特別な病気ではない。2025年には高齢者の「5人に1人」が認知症になると見込まれている。どう病気と付き合い、介護をしていけばいいのか。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに聞いた。

 嘘も方便 早めに専門機関へ

 うっかり買い物を忘れてしまった、知り合いの名前が出てこない。もの忘れ自体はよくあることだが、そこに「ちょっとおかしい」と感じる症状が加われば、認知症のサインかもしれない。外出して迷子になったり、お金の勘定ができなくなるのはその兆候だ。

 太田差惠子さんは「認知症を疑ったときは、早めに専門機関に相談するのが最善の策です。初期の認知症なら、適切なサポートを受けて独立して社会生活を送ることも十分に可能です」と話す。

 しかし、自分が認知症かもしれないという事実を受け止めるのは難しい。家族に病院を勧められてもかたくなに拒む人がいるのも、無理はない。太田さんは「無理強いは逆効果。例えば『今月までは検査が無料だよ』と言ってみたり、かかりつけ医の協力で健康診断と脳の検査をセットで行うなど、嘘も方便で立ち回ったほうがいい」とアドバイスする。

 介護の拠点となる地域包括支援センターへ行くのも一案だ。
「病院ではないので誘いやすいし、介護認定の手続きを同時に進められるので、その後の介護がスムーズなのも利点ですね」

 

「いくらかけるか」は家族の状況次第

 認知症が進行すると、はいかいや幻覚、被害妄想などさまざまな行動・心理症状(BPSD)を発症する。そうなれば家族だけでつきっきりの介護を担うのは限界がある。目を離したわずかな時間に、はいかいしたお年寄りが線路内に立ち入って列車を止めてしまったという事故も実際に起きている。

「責任感のある方ほど介護をしょいこみやすいのですが、働き盛りの子どもが親の介護で離職してしまうと、今度は子どもの老後資金が細ってしまいます。夫婦二人暮らしでの老々介護なら、共倒れになってしまう恐れもあるでしょう。肉体的・精神的に追い詰められるのを防ぐためにも、在宅介護であれば訪問介護やデイサービスなども利用したいですね。ケアマネージャーさんとしっかり相談して公的な支援サービスは可能な限り活用すべき。自宅での介護が難しい場合は、グループホームなども選択肢になり得るでしょう。ただ認知症の状態や医療依存度によって、入居できる施設の種類が変わってきます」

 公的な介護保険を利用すれば、自己負担は原則1割ですみ、本人の要介護度に合わせて利用限度額が設定されている(下図)。

 

「多くの方はこの範囲内でまかなっています。けれど、どんな介護サービスをどれだけ使うかは、家庭環境や価値観、ライフスタイルなどで変わります。介護する家族が少ないと、平日昼間に介護サービスをフル活用したうえで、夜間や土日にも手助けがないとやっていけないこともあります。介護のお金は『いくらかかるか』ではなく『いくらかけるか』という視点で考えるべきです」

介護サービスの基本は自己申告と情報収集

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長 太田差惠子
20年以上にわたる取材活動より得た豊富な事例を基に、「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点で新聞、テレビなどのメディアを通して情報を発信する。主な著書に『遠距離介護』(岩波書店)など。

 介護のお金を準備する際は、限度額を超えたときに一定額以上の介護費を払い戻しする高額介護サービス費制度などを知っておくと、予想以上にお金が必要になったときの助けになる。また自治体によっては、認知症の人がベッドから離れたことを知らせるセンサーのレンタルなどさまざまな支援メニューがある。太田さんは「介護の支援は自己申告しなければ始まりません。情報収集しておくのが基本です」と助言する。

 自らお金を蓄えておくことも大切だ。預金や保険などで資金面での備えがあれば、病気や事故などによる状況の急変にも対応しやすく、家族に負担をかけずにすむ。

「お金の工面では、自宅の売却や貸し出しなどを含めた不動産の活用も視野に入ってきます。相続にも関わる問題なので、元気なうちに親の声かけで家族会議を開き、介護をどうするのか、財産をいかに使うのかを考えておきたいですね。あらかじめ任意後見制度を活用するのもお勧めです」

 また、糖尿病や高血圧、難聴などは認知症リスクを高めると考えられている。普段から病気のリスクを抑える生活習慣を身に付けておくことも大切だ。認知症に限らず、介護は「自ら情報収集し、正しい知識をもとに行動する」(太田さん)ことで負担が変わる。高齢者の5人に1人が認知症になると言われる時代だからこそ、その予防や対策を立てておきたい。


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