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林家木久扇「僕は客寄せパンダでいいんですよ(笑)」

クローズアップ

2017/02/17

source : 週刊文春 2017年2月23日号

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ, 医療

note
 

「近年がんの取材だけで80件以上受けました。がんが治るってこんなに凄いことなんだとびっくりしましたね。僕が回復したのを一般の方たちがすごく喜んでくれてね。噺に入れると、木久扇さんでも治るんなら大丈夫なのかなって希望をもってもらえるんですよ(笑)」

 2014年喉頭がんを患うも、無事復帰した林家木久扇師匠が落語ライブCD『林家木久扇 ザ・スーパースター』をリリースした。寄席では治療中の不安も「私の空席に(春風亭)小朝さんや(桂)文珍さんが来るんじゃないかって気が気でなかった」と爆笑ネタにする。十八番の『道具屋』で演ずる与太郎がひときわ冴えを見せる。

「僕は与太郎のような客寄せパンダでいいんですよ。落語でもテレビでもバカを演(や)ってね。実際、昔はいましたヨ、町のバカが。故郷の日本橋にも。戦争中、空襲が来る! って時に防空壕の前で歌ってる。周りは『しょうがねえなァ』って呆れながらも愛されていて」

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 そんな木久扇師匠を愛した一人に故・立川談志がいる。

「鞄持ちやったりしてたんだけど、よく安くて美味い店に連れてってくれましたね。テレビに推してくれたのも談志さん。筆まめでね、飛行機にあるハガキに礼状を書いて『オイ、これお願い』ってそのままスチュワーデスに渡すんです。ケチったんですよ。切手は搭乗員がサービスで貼っていた(笑)」

 東の談志に対し、西の横山やすしとの交流も深かった。

「やすしさんは寂しがり屋。喧嘩っ早いから東京に来ても怖がって誰も寄り付かない。だから『キクさん行こや!』って飲みに誘ってくる。で、店を出るのも早くて、いつも『毎度!』って勘定は僕持ち(笑)。ある時スナックで歌手の三善英史さんがレコードを手売りしてたの。それが売れてなくてね、見かねたやすしさんが『しっかりせえ!』って代わりに全部売った。そういう人柄だった」

 師匠の芸には、片岡千恵蔵、榎本健一、田中角栄らが登場する。モノマネではなく実際に会った人を紹介する「ドキュメント」だと言う。

「角栄さんにね、ラーメン党の北京支店を出したいって目白の家へ陳情に行ったんです。制限時間は3分。で、お願いすると『キミね、私はラーメンのために日中国交正常化をやったわけじゃないの。帰れ!』と一喝。『でも先生、うちの党員は3000人おりまして……』って言うと『キミ、それを早く言い給え』(笑)。めでたく北京出店が叶いました」

 傘寿を迎える抱負を伺うと、余技ではない漫画家としての野望が返ってきた。

「ラーメン天狗ってキャラでアニメをやりたい。長屋と屋台が宇宙を飛び交う作品で『スター・ウォーズ』の向こうを張りますヨ」

はやしやきくおう/1937年生まれ。60年三代目桂三木助に入門。61年、三木助逝去に伴い八代目林家正蔵門下へ移籍。69年『笑点』大喜利メンバーに。82年横山やすしと全国ラーメン党結成。2007年親子でW襲名、初代木久扇を名乗る。16年NHK「みんなのうた」で「空とぶプリンプリン」発表。

INFORMATION
 

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林家木久扇「僕は客寄せパンダでいいんですよ(笑)」

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