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伝説のハガキ職人のギリギリ人生「人間やるのがしんどいです」

伝説のハガキ職人のギリギリ人生「人間やるのがしんどいです」

『笑いのカイブツ』は破綻すれすれで生きている

note

 ツチヤタカユキさんは、知る人ぞ知る“伝説のハガキ職人”。人間関係が不得意で、友だちもほとんどいなかった青春時代のすべてをお笑いにかけました。テレビやラジオの投稿コーナーに膨大な量と質のネタを送り続け、次第に名が知られていきます。バイトしながら尋常ではない熱情でネタ作りを続けたツチヤさんの才能はある芸人の目にとまり、一緒に漫才やコントをつくろうと誘われます。意を決して上京し、座付作家となったツチヤさんでしたが、やはり不得手な人間関係のゆえに体を壊し、逃げるように地元に帰りました。刊行直後に増刷が決定、大きな反響を呼んでいる『笑いのカイブツ』は、そんな不器用な生き方しかできないツチヤさんが初めて書いた小説です。

◆◆◆

サザエさんとか僕からしたら、異常です。

『笑いのカイブツ』(ツチヤ タカユキ 著)

――『笑いのカイブツ』は私小説と銘打っていますが、どこまでが事実なんですか。

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 中身はぜんぶ、事実を元にして書いています。でもそれをそのまま書いてもつまらないし、そんなものはただの日記であって、エンタメではないので、もっと面白くするために、書き方や見せ方や表現で、エンタメに変換しています。(時系列がいったりきたりしているのは)もともとウェブサイトでの連載だったので、つまらなかったら連載が打ち切られる。そうなったら死ぬしかないと思って、面白いと思うところから切り出していったら、そんな感じになりました。

――初めての恋愛の話もありますが。

 彼女との話は出会いから別れまで全部本当です。連載を始める前に、いつか書くかもしれないと許可をもらいました。でもその後、酔っぱらった時にめっちゃ電話をしてしまって、いまは着信拒否されています。彼女のことを書いた感想は……、きてないですね。

 人間関係不得意というのは、小さい頃からずっとそうです。人とは喋ったりしなかった。自分は普通よりも劣っていて、劣等生だと思ってました。勉強も運動も全部です。内向的な子供で、小学校のときも友達と遊びにいったことないです。友だちと遊ぶより、マンガのほうが面白いと思っていました。ジャンプとかの漫画です。小学校四年生の時に先生が家庭訪問に来て、部屋にマンガが何千冊もあるのを見てドンビキしていました。

――冒頭に、「母に捧ぐ」と献辞が掲げられています。

 記憶が始まった時には、父親はいなかったです。団地で母親と2人暮らしです。それが普通。『サザエさん』とか僕からしたら、異常です。母親は保育士をしていますがご飯を作らない人なので、小さい頃から昼ごはん代・夜ごはん代をもらっていました。500円とか1000円。それでカップヌードルとか安いものを買って、残りでブックオフに行ってマンガを買っていました。それで何千冊もマンガがあったんです。

 1人で留守番する感じだったんで、寂しくないように親がDVDを借りて置いてくれていました。だから子どもにしては、メチャクチャ洋画を見てましたね。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』とか。幼稚園からお笑い番組が好きでした。『ダウンタウンのごっつええ感じ』『ボキャブラ天国』、NHKでやっていた『Mr.ビーン』とか『モンティ・パイソン』も大好きでした。マンガにハマったらマンガを描いて、お笑いにハマったらお笑いを作っていました。人に見せたりはしませんでした。そういう子ども時代のことは、『笑いのカイブツ』に生きていますね。

ダメ店員ですね。「だからすぐにクビ」

ツチヤ タカユキさん。©文藝春秋

 自分の性格はめんどくさいなあと思います。自分でしんどいです、自分が。この人間をやるのがしんどい。この人間・この性格で生きていくのがしんどい。自分がめんどくさいから、周りはもっと思てるでしょうね。なんてめんどくさいヤツだって。性格がジェットコースターみたいに上がり下がりの波が激しいと思います。いい時、上がっている時が普通の人の普通です。下に行くと、モグラのように深く潜ってしまって、死にたい気持ちになります。(そうなると)最近はお酒を家で飲みます。ストロングゼロです。レモンチューハイです。毎日朝から飲んでます。

――たくさん飲むんですか。

 2本飲みます。

――すごくたくさんでも……ない? 3本目は?

 2本飲んだらもう飲めないです。気持ち悪くなってしまうので。2本飲んで寝て、夜中に起きて、テレビ見たり、書いたり、朝になってまた2本飲んで。

 ハガキ職人のころは、いろいろバイトをしました。居酒屋、TSUTAYA、ローソン、ファミマ、カラオケ、バー、ホストの体験入店、肉体労働、ヨーグルトを売る営業、松屋、焼肉屋、フランス料理屋、スナック、USJのカメラマン、学童保育、キャバクラのボーイ、ロッテリア。その頃、自分のベクトルはお笑いに向いてたので、仕事はどうでもいいんです。お金もらえたらそれでいい。一通りというか、仕事をしてるふりができればいいので、それだけ覚えるんです。やってるように見えるけど、内容をともなっていないみたいな。

――ダメ店員ですね。

 だからすぐにクビになってました。あと、ネタをつくってて止まらなくなるときがあって、すると無断欠勤になってまうんです。これはある意味自分からやめてるんかなと思います。ネタ読まれなくなったら死ぬんちゃうかみたいな強迫観念があったんです。

――なぜそこまでしてお笑いを?

 ……お笑いを書いてるときだけ、生きてる感じがしたからです。バイトをしていても、その時の自分は死んでる人間です。お笑いやってるときだけ生きてる人間でした。

 いまは仕事がないです。悪い言い方したらニート、良く言えば仕事まち状態です。冷静に考えたら死にたなる状態です。ギリ生きてます。原稿の仕事が来なければ、書く仕事も引退かなと思ってます。

笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ(著)

文藝春秋
2017年2月16日 発売

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