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左派朝日新聞vs極右幼稚園

国有地を巡る「譲れない争い」が試す読者の世間リテラシー

2017/02/23
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 米・トランプ大統領とのゴルフ外交に挑み成功裏に終えた安倍晋三首相、その会談のツカミにこんな話をしたと伝えられています。

安倍「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った」
トランプ「おう、私も勝った!」

 そ、そうですね……。

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 まあ、両者がメディアから叩かれている内容は違うような気もしますが……。権力者を監視し批判するのがメディアの役割であるとはいえ、何かしようとすると必ずいちゃもんをつけてくるマスコミが鬱陶しいという気持ちを持ちやすいのは分かります。

右まっしぐらな学校法人「森友学園」と焦げ臭い土地

 で、先日は「教育勅語の活用」など、いろんな意味で右まっしぐらな学校法人「森友学園」に対し、財務省の近畿財務局が格安の値段で国有地を払い下げていたことが、朝日新聞の報道で改めて表沙汰になりました。もちろん、学校法人が法的に問題ない範囲内で彼らが正しいと思う日本の伝統に沿った幼少教育を塚本幼稚園などで行うことそのものは何一つ問題ではありません。

 ただ、本件土地取引については、もともと何かおかしいって焦げ臭い煙の立ち上ってた事案であっただけに、朝日新聞が情報公開かけて実情を調べようというのは権力批判としては妥当なのかなとも思います。この国有地の値段は10億円ほど、それにゴミが堆積しているので処理費用の8億円を控除しましたという契約ですから、小学校を建設するための土地取得という「公共随意契約」であったとしても実に微妙な内容です。私も随意したい。公募から売却まで3年かかった土地とはいえ、近隣のタネ地は普通に売買されていることを考えると、いろんな思いが去来いたします。

大阪府豊中市、学校法人「森友学園」が取得した土地に新設される小学校の建設現場 ©共同通信社

 当初は売却金額も隠蔽していたという話もある一方、大阪航空局が土地の処理を巡る処理費用の積算を公にしていた結果だ、という火消し情報も出ました。ところが、この埋まっているとされるガラスなど一般ゴミ処分内容について一部で報じられている内容が事実であるならば、1.2万立方メートルの土砂をきれいな土壌に入れ替えるという積算が航空局の見積もりです。どんだけゴミ溜めてたんですかね。その処分と土砂入れ替えだけのためにのべ4,000台近いダンプカーが出入りするって話になります。豊洲市場かよ。

筋の悪そうなものに関わり続ける「名誉校長」

 これってどういう便宜があったのかと思っているさなかに「安倍晋三記念小学校 設立に向けた寄付願い」とかいうネタが飛び出してきてびっくりするわけです。現職の総理大臣を冠にした小学校を建立してしまうとか、現人神なのか便乗商売なのか分かりませんが、実際にそういうのがあるって話を聞いたときは、さすがの私も「気持ちは分かるが死んでからにしろ」と思うわけです。生きてるのに記念してどうすんだろ。生前葬でもやるのか。さすがに民進党の玉木雄一郎さんや、国会の質問で立った福島伸享さんに対して、こう仰いました。

安倍「私や妻は一切関わっていない。もし関わっていたら間違いなく、首相も国会議員も辞任するということを、はっきり申し上げる」

 そ、そうですね……。

 まあ、いろんな先走った支持者の方が独走されると首相も大変ですね。そう思う一方、このごみ処分の上に建設される(はずの)小学校に「名誉校長として安倍首相夫人である安倍昭恵女史が就任するぞ」なんてことが書いてあります。不肖、私も44年間生きてきて「名誉校長」って肩書、初めて見ました。何するんだろう、名誉校長。

何するんだろう、名誉校長 ©山元茂樹/文藝春秋

 問題の土地取引自体は、この安倍昭恵女史の名誉校長就任騒ぎの前ですから、安倍首相が国会で答弁したようにおそらくは介入してはいないのでしょう。ただ、この安倍昭恵女史についていうならば、参院選に立候補して比較的反体制派の言動を繰り返していたミュージシャン三宅洋平さんを伴って沖縄の米軍基地反対の論を張るキャンプを電撃訪問してみたり、政治学者の西田亮介さんとの対談で良い意味でスピリチュアル、悪い意味で何かキメてる感じの生まれたままの言動を繰り返して、見物しているこっちが精神崩壊しかねないほどの強い電波を発しているように感じられます。ほんとヤバイ。

 極め付けは、地元山口の長年の後援者で遠戚のご子息・斎木陽平さんの率いる「AO義塾」に肩入れし、関係団体が主催する「全国高校生未来会議」に安倍総理大臣賞や高市早苗総務大臣賞、石破茂地域創生担当大臣賞(当時)を仕込んだりしていました。この筋の悪そうなものに関わり続ける引きの強さにはびっくりです。ほかに類似のイベントや業者もたくさんある中で、この便宜の図り方は首相夫人による利益供与と言われても仕方がない側面はあります。善意のあるエネルギッシュな人を簡単に信じやすいというか、立場を考えずに良いと感じたものを信じて邁進する御仁なのでしょう。