昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

池上 彰
2017/02/27

転職したい。池上さん、エールを下さい

池上さんに聞いてみた。

Q 転職したい。池上さんからエールが欲しいです。

 転職を考えています。池上さんは会社を辞めるとき、どのようなことに気をつけましたか。NHKをお辞めになるのはとても大きな決断だったのではないでしょうか。池上さんから、会社を辞める心構えや、エールをいただけたらとても嬉しいです。(29歳・女・会社員)

A 実力勝負です。でも、アドバイスをひとつ。

 私がNHKを辞めたのは、「本を書く仕事に専念したい」という思いがあったからです。

 NHKの「週刊こどもニュース」を担当しているうちに、「ニュースを解説する本を書きませんか」という注文をお受けするようになりました。書いているうちに、「自分はテレビに出ているより本を書いている方が楽しい」ということに気づいたのです。

 もともと私は記者。私がNHKに入った1973年頃は、記者がテレビに出ることはほとんどありませんでした。記者は裏方としてアナウンサーが読む原稿を書くのが仕事だったのです。

 私がNHKに入った頃は、まずはラジオ用原稿の書き方から訓練を受けました。テレビ用の原稿なら「見ればわかる」という所は省略できますが、ラジオはそうはいきません。映像がなくても理解してもらえるような描写力が求められました。文章を書くのが苦にならないのは、このときの経験があるからだと思います。

「本を書く仕事に専念したい」と考え、NHKを辞めることを知り合いの編集者に相談したところ、「辞めるのはやめなさい」と忠告を受けました。「ノンフィクションで食っていくのは難しいですよ」ということでした。

 結局、その忠告を無視して退職してしまいました。

 ただし、私の先行きを心配してくれて、週刊誌(「週刊文春」ではありません)に連載コラムを持つ仕事を紹介してくれました。たとえ少しでも定期的に収入があるというのは安心材料です。

 辞めるときに民放からの話は全くありませんでした。

 退職の時点で、2つの出版社(文藝春秋ではありません)から、それぞれ1冊ずつ本を書く注文があったので、「これで1年はなんとかなるのではないか」と思っていました。そこから先は出たとこ勝負。実力勝負です。何のあてもありませんでした。

 ただし、それまでに出版したニュースをやさしく解説する本や、現代史を取り上げる本が、そこそこ売れていたので、「なんとかなるさ」という気持ちがありました。足を踏み出そうかどうしようかと迷っていたら、結局何もできないのではないかと思います。

 NHKを辞めると、すぐに中東調査会に入り、身銭を切って、イランやヨルダン、イスラエル、ベトナム、南アフリカなどに取材に出かけました。

 そんなことをしているうちに、私がNHKを辞めたことを知った民放の人から連絡が入るようになり、気がつくと、再びテレビに出るようになっていました。

 というわけで、辞めるときに大きな決断はありませんでした。

 あなたが会社を辞めることは自己責任。辞めてうまくいかなくても、誰のせいにもできません。でも、一歩踏み出さないと、新しい世界には行きつかないのです。

 ただし、アドバイスをひとつ。もしフリーランスになろうという人だったら、会社を辞める前にクレジットカードを作っておきましょう。フリーランスが新規にカード会員になるのは難しいことがあるからです。私も辞める直前にカード会員になっておきました。

「○○さんに聞いてみた。」のコーナーでは、みなさまからの質問を募集しています!

質問投稿フォーム