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以前は毎回新しいことをやろうとしていましたが、今はあまり新しい課題にはこだわらないようにと思っています――中島京子(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/11/15

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「現代に生きる女性にとって、生きやすい面、生きづらい面はどこにあると思いますか?」

 

●中島家は両親とも文学研究家で、お姉さんもエッセイストと聞いていますが、やはり幼い頃から小説への関心は高かったんですか。また、家にはたくさんの本があり、子供の頃から読んでいたのですか?(40代男性)

中島 父が翻訳をやっていたんですけれど、自分が訳したもので子供が出てくる話があったりすると、ご飯のあとに読んでくれたんですよね。

 うちの父は結構変わった人だったので、いろんな変なエピソードがあるんです。そのひとつとして突然家族で『平家物語』を読むと言い出したことがありました。お姉ちゃんが中学生になった時でした。どうして娘が中学生になると『平家物語』を家族で読まなきゃいけないのか、全然分かりませんよね。

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 私は小学校4年生だったんですけれど、すごく立派な『平家物語』の本が与えられました。上に原文があって、下に注釈がついているんですが、全然子ども向けって感じじゃなかった。注釈本によって解釈が微妙に違うから何冊か持っていたほうがいいということで、家族それぞれ違う本を持っていた気がします。でも、あんまり何回もやらなかったんですよね。きっと私がついていけなかったからだと思う(笑)。

 河出書房新社の『日本文学全集』で『堤中納言物語』(『日本文学全集03』、河出書房新社、2016年1月刊行予定)の訳を担当した時は、やっぱり何冊か注釈本を用意しました。それでちょっと分からないところがあると、あっちを見たり、こっちを見たりという。『堤中納言物語』は大変だったけれど、すごく面白かったですね。あんなに笑える話だとは思いませんでした。

●『かたづの!』は、当時と今と、現代の女性を取り巻く環境の似ている面や違う面も面白く読みました。あの頃と比べて、現代に生きる女性にとって、生きやすい面、生きづらい面はどこにあると思いますか?(40代女性)

中島 つまらない答えになってしまうんですが…。400年前にくらべれば、今は選択肢も広がっていますよね。身分制度もないし、自分でお金を稼げますし。家というものに縛られなくてもいい。生きやすくなっているといえるのではないでしょうか。

 でも、そうかと言って、女性ならではの生きづらさとか、社会で活躍しにくいところとか、たとえばシングルマザーの人が大変だったりとか、若い女性の貧困とか、いろんな問題がありますよね。とくに、このごろ変な揺り戻しというか、育児や介護などを家庭の女性に負担させていくような圧力というか、風潮が強くなってきているのは、問題だと思っています。

●今の世の中に望むことは何ですか?(50代男性)

中島 私、もっと普通になってほしいです。なんというか……もっと普通になってほしいです。2回言いましたね(笑)。

 だって、選挙に行こうとか憲法を守ろうというのは、万引きはやめようとか、信号は青で渡ろうというのと同じくらい、ただの常識でしかないようなことだと思うんです。でもそれを言うだけで殺害予告が届いたりする世の中はやっぱりおかしいですよ。もちろん、今の世の中が特別なのではなくて、そういうことをする人はいつの時代にも一定の数はいるのだと考えることができるかもしれないですけれど、でも、やっぱりそうじゃない気がしますね。対話が成り立たないというか、コミュニケーションがうまくいかなくなってきている気がします。なんというか、もう少し言論の自由を取り戻してほしいです。私は戦前の話ばかり書いていますが(笑)、戦後70年間守ってきたもの、人が自由に自分らしく生きられる権利を尊重するという戦後日本の持った文化を、もっとだいじにしなければいけないと、最近そのことばかり考えています。

以前は毎回新しいことをやろうとしていましたが、今はあまり新しい課題にはこだわらないようにと思っています――中島京子(2)

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