昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

春名 幹男
2017/02/28

トランプ対CIA 冷戦後に何が起こったのか?

世界を動かすアメリカ史 

 スタート時から続く新政権と情報機関との衝突。トランプ・パニックで深まるアメリカ外交の混迷。

◆ ◆ ◆

 第45代大統領にドナルド・トランプが就任しておよそ1カ月だが、まさに異例尽くしのスタートというほかない事態が続いている。なかでも新政権にとって致命的な弱点につながりかねない点が2つある。1つは人事の遅れと混乱。もう1つは情報機関との関係だ。

 そもそも新大統領の誕生に際しては、政権幹部やスタッフは大幅に入れ替わる。しかも今回のように民主党から共和党へ政権交代した場合はその入れ替えも大規模になり、必ずしも就任時にすべての人事が決定されているわけではない。

 しかしトランプ政権の場合は、その遅れが際立っている。1月24日の時点では、国防長官、国土安全保障長官、中央情報局(CIA)長官の3人しか就任していなかったが、オバマ政権、ブッシュ(子)政権発足時には、いずれも初日に7人の長官が決定していた。主要なスタッフで上院の指名が必要とされる693人のうち、就任時に指名されたのはわずか30人にも満たなかった。

 トランプ新大統領は就任早々、TPP撤退、メキシコ国境での壁の建設、イスラム圏7カ国からの入国規制強化など次々に大統領令を出し、大胆な政策転換を進めている。しかし、それを実際に動かす幹部、スタッフなどの体制が整っていないのだ。

©ゲッティ=共同

 アメリカという国家を巨大なマシーンに喩(たと)えるならば、大統領は操縦士といえる。しかし、当然ながら、このマシーンは巨大過ぎて一人で動かすことなど出来るはずもない。様々な組織のトップに信頼できる人物を配置し、スタッフが実行計画を立案し、いかに現場を混乱なく動かすかが重要になってくる。つまり人事→計画→体制づくり→実行のプロセスが不可欠なのだが、ここまでの一連のトランプ改革は、いきなり大統領令が出され、激しい反発と混乱を招くことの繰り返しだ。物議を醸(かも)している入国規制も、担当部局の長であるケリー国土安全保障長官でさえ、大統領令が出されたことを、当日、飛行機の中で知らされたという。

 それだけに、トランプが次々ツイッターなどでぶちあげる政策が現実に行われるかも未知数なのだが、こんなやり方で巨大なアメリカ国家を動かしていくつもりなのかという不安が日に日に募る。

「教えてもらう必要がない」

 なかでも深刻なのはトランプ政権とインテリジェンス・コミュニティー、すなわち情報機関との関係で重大な軋(きし)みが生じていることだろう。それを端的にあらわしたのが、大統領就任前、プレジデンツ・デイリー・ブリーフ(PDB、大統領日報)をめぐるトランプの対応だった。

 アメリカ政府にはCIA、海外情報通信の収集と分析を主任務とするNSA(国家安全保障局)など17の情報機関がある。これらを総称してインテリジェンス・コミュニティーと呼ぶが、それを統括し、各機関の人事、予算を掌握しているのが、国家情報長官(DNI)だ。

 このDNI事務所は、最新の世界情勢を1〜3枚程度のレポートにまとめ、大統領に毎朝、報告を行っている。その極秘報告が「大統領日報」だ。公開されたものを見ると、2001年、9・11テロ事件の1カ月以上前に、このPDBで「ビン・ラディンがアメリカ攻撃を決意している」という情報が報告されるなど、まさにトップシークレットというに相応(ふさわ)しい内容が含まれている。

 実はこの報告を受けるのは、大統領だけではない。民主、共和両党の指名を受けた正式候補、当選が決まった次期大統領も、同じブリーフィングを受けることになっている。

 これは、第33代大統領のトルーマンが決めた制度である。先代ルーズベルトの急死を受け、急遽副大統領から大統領に昇格したトルーマンは、原爆開発計画が進められているという重大な事実を全く知らされていなかった。この苦い経験から、アメリカという巨大マシーンの舵取(かじと)りに空白をつくらないためのシステムが生まれたのである。

 ところがトランプは次期大統領に決まったにもかかわらず、毎朝のブリーフィングを拒否、週1回だけしか受けようとしなかった。テレビのインタビューでその理由を聞かれたトランプは「教えてもらう必要がない。私は賢い人間だから」と答え、さらにアメリカの情報機関について、「過去10年に何が起きたか、考えてみろ。我が国のインテリジェンスを担当してきた人々をそれほど信頼できない」と語っている。

 なぜトランプは自国の情報機関に対してこれほどまでに攻撃的なのか? そして、これから大統領としてインテリジェンス・コミュニティーにどのような態度で臨むのか?

はてなブックマークに追加