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連載モテ読書

犬山 紙子
2017/03/08

別れた作家のカレの作品をどうするか問題――犬山紙子「モテ読書」

 作家の恋人。なんだか、ミューズというイ メージがありますよね。様々な作家が、様々な女を書いてきたわけですが、彼女たちは本の中で永遠に美しく生き続ける……。が、実際に作家の彼女というのはどういうものなの か、そして別れた後ってどんな感じなのでしょう。

©犬山紙子

 知り合いのDちゃん(31)は石田ゆり子さんのような、儚げな魅力のある大人の女性。彼女は2年前までとある作家と付き合っていたそうで(それが誰かは絶対に言わないのがイイ)かなり濃密な愛の日々を過ごしていたようです。作家と交わすメールは極上のものだったそうで……(確かに言葉のプロに口説かれるって最高ですね)。同時に理解に苦しむ言動とルールも存在し、そこが魅力でもあり、苦しくもある毎日だったそうです。

 その苦しさが勝った2年前に彼女は別れを切り出したそうですが、一つ問題が勃発。それは彼の作品をどうするか問題。彼を愛さなくなったとて、彼の作品は愛しているわけで、作品は作品と割り切るべきか、彼の一部と思って捨てるべきか、悩んだ末、彼の本は捨てずに枕元の本棚に置いてあるそうです。

 そして、Dちゃんにその後新しい彼氏ができるわけですが、本はそのまま。「ええ! それは新しい彼が知らないとは言え捨てたほうがいいんでないの?」と聞くと「いや、彼氏の家にも前の彼女のものとか普通にあるし、私も彼も別段それを気にしてないから大丈夫」とのこと。お、大人の関係だ……。

 しかし、彼が泊まりに来ると、何故か元彼の本だけが触ってもいないのに本棚から落ちるという怪奇現象が勃発。まー、それはただの偶然では? と思いきや「実は今の彼と付き合う前にいい感じの人がいてね、その人が家に遊びにきた時も、彼の本が落ちたのよ。しかも、どっちもエッセイとかじゃなくて一番濃ゆい小説」と言うではありませんか。

 作家にとって本とは子どものようなもので、その子が何かを訴えている!? とゾッとしたわけですが、やはりこれはただの偶然。でも、偶然に意味をつけたくなってしまうのが本。好きだった男の削った魂が宿っているわけですから、ペアリングとか2人の写真よりも念のこもった置き土産になるわけです。

「でも、枕元から本の場所を今更変えるのも逆に意識してるみたいでしたくないんだよね、それだったら引越ししてしまったほうがいい気がするのよ」と彼女。私だったらお金かかる引越しよりも本の場所を変えるけど、作家と付き合ってただけあるというか、こだわりのある女性なのであります。

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