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3歳のときに感じた気持ちは、いつか絶対誰かが書いてしまうと思っていた。でも、30年経っても誰も書いていなかったので物語にした──川村元気(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/11/27
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川村元気さんへの質問

●川村さんは、『世界から猫が消えたなら』を執筆なさる際に何か心がけたことはありますか? また、もしも川村さんがこの世界から何か大切な物をひとつ消さなければならないとしたら、なにを消しますか? (10代男性)

川村 登場人物の名前を、僕、父、母、彼女、などとすべて匿名にしました。どこかで読者が、自分の人生と重ねて物語を読むように書こうと思っていました。消したいものは思いつかないですが、消したくないのはやはり映画です。

●小説を書くとき、頭の中に映像はありますか。あるとしたら、それを映画化したいとは思わないのでしょうか。(40代女性)

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川村 『世界から猫が消えたなら』のときは、映像化できないシーンを映像的に描くということをやっていました。「猫が消えた世界」は読者が脳内に作ることはできますが、映像化するのは難しい、というように。一方、新作の『四月になれば彼女は』はシーンの並び、カット割りからカメラアングルまで頭の中で映像を完全に構築してから書いています。

●映像化したいと思う小説はどういうものですか。また、映像化は絶対に無理だと思う小説はどういうものでしょうか。具体的な作品名もあればうれしいです。(30代女性)

川村 映像化したいと思うのは、一読して映像化のイメージが持てないものです。逆に映像化が難しいと思うのは、読みながら映像が具体的に見えてしまうものです。映像化したときに驚きのないものは映像化に不利だと思っているからです。

●川村さんはご自身で作品を作る時と、作品をプロデュースする時とでどのようにアイデアを配分しているのでしょうか。自分の作品に使おうと思っていたアイデアを他の作品に使うということはあるのでしょうか?(20代男性)

川村 そこらへんは渾然一体となっている気がします。映画を作りながら思いついたアイデアが小説になるときも、その逆もあります。ただ小説を書くときは、そのとき自分が違和感を感じていること、切実に知りたいことをテーマにして、取材して考え抜いて書くことで、その答えを見つけていくという作り方をします。

●『世界から猫が消えたなら』で心が締め付けられるラストに泣きました。私は、映像より読書や舞台観劇が多いのですが、舞台がもっと身近になって欲しいと願っています。川村さんの創る世界は、多くの人が影響を受けていますが、舞台の世界を創ろうと思ったことはありませんか? もし、川村さんが舞台を創るとしたら、どこにポイントをおいて舞台を創られるのか知りたいです。(40代女性)

川村 僕も舞台を見るのは大好きなのですが、自分で作るのは不得手な気がしています。僕は物事が、飛んだり、消えたり、入れ替わったりすることで物語を作るところがあります。それはつまり「編集」なのですが、演劇という場所ではなかなかそれが表現しにくいと感じているからです。

●川村さんの初めての作品、『世界から猫が消えたなら』からずっと川村さんの作品を読んでます。あの猫は川村さん自身がどこかで出会っている猫ですか? それとも架空の猫ですか? それからなぜ猫にしようと思ったんですか? これからも元気になれる心の温まる作品を待っています。(30代女性)

川村 ありがとうございます。キャベツは、僕が小さい頃飼っていた半分野良猫みたいな猫をモデルにしています。いつもふらっとうちにやってきては、気づくと外に行ってしまう。ある日、その猫が出かけたまま帰ってこなかった。その喪失の記憶が、物語のベースになっています。当たり前にそこにあったものが消えることが一番悲しい。猫というのは、分かり合えているようで掴み所がなく、いつも近くにいるようでどこか遠くに行ってしまいそうな、その不思議な存在感が今回の作品のテーマに合っていると思いました。

●「売れていること」が次の作品へのプレッシャーになったりしませんか?(40代女性)

川村 先述したように、小説は「僕が切実に知りたいこと」の答えを出すために書きます。なのでプレッシャーというよりは、ある種自分本位な表現と言えます。ただ「僕が切実に知りたいこと」は、「同じ時代を生きる多くの人が知りたいこと」でもあると信じて書きます。『四月になれば彼女は』においては、「なぜ最近、僕のまわりの人たちから恋愛感情がどんどん失われていくのか」ということについての違和感から始まっています。

3歳のときに感じた気持ちは、いつか絶対誰かが書いてしまうと思っていた。でも、30年経っても誰も書いていなかったので物語にした──川村元気(2)

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