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古森 義久
2017/03/04

トランプ大統領核戦力増強宣言。これは米国世論の本音でもある

 2月23日に報じられたロイター通信とのインタビューで、トランプ大統領が核戦略について語った内容は国際的な波紋を広げた。

 トランプ氏は「核兵器のない世界を望むが、その実現までは他国より強い核能力の保持が必要だ」という注釈をつけながらも、「アメリカは核能力で他国に後れをとりはじめた」として、「世界最強の核兵器大国」たらんとする意思を躊躇なく表明した。

 もっともトランプ氏が核戦略を語るのはこれが初めてではない。昨年12月にもツイッターで、〈アメリカは全世界が核兵器に関して(全廃への)正常な感覚を持つまでは核能力を大幅に強化し、拡大せねばならない〉と発信した。

 翌日、記者に「それではロシアとの核軍拡競争になるのではないか」と問われると、「軍拡競争でもよいではないか。アメリカはその競争のすべてで他の諸国を圧倒する」と答えた。こうした発言には当時、アメリカ国内の専門家筋からも「核抑止政策という重要案件を綿密な研究や調査なしに軽く語るのは危険だ」という批判の声が挙がった。

インタビューはホワイトハウスで行われた ©共同通信社

 一方で、今回の発言は、実はアメリカのメディアではそれほど大きく報じられていない。本来であれば、大統領就任後の発言であることが問題となってしかるべきだが、“トランプ劇場”に振り回されるメディアのアジェンダは日替わりだ。日本のメディアがこの発言を大きく報じる頃には、米国内メディアは、トランスジェンダーの生徒たちの学校での異性用トイレ使用を認めたオバマ氏の大統領令をトランプ氏が破棄した話題で持ち切りとなっていた。

 その背景には、アメリカの一般国民も含めて、核戦力でアメリカが世界一であるべきだという基本認識が共有されている事情もある。むしろ「核なき世界」を唱えたオバマ前大統領のほうが少数派だったのである。

 オバマ政権末期には「米軍の核兵器は老朽化し、デザインも旧式、製造施設が閉鎖される状態となり、核抑止力が空洞化してきた」(国防総省国防特殊兵器局の元局長ロバート・モンロー氏)との懸念は超党派で共有されていた。今回のトランプ大統領の発言もその流れを踏まえて、数歩先をいく言明をしたといえよう。