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恩田 陸
2017/03/07

恩田陸が選ぶ「2000年代国内&海外ミステリー至高の10冊」

オール讀物セレクション 作家の本棚

 はずれなし! どれも一気読み間違いなし、正真正銘の傑作と自信を持ってお薦めするラインナップである。これを今からまっさらで読める人が、本当に心の底から羨ましい、妬ましい。

 ミステリの中でも、私が特に好きなのは本格ミステリと呼ばれる謎解き中心のもの。ただ、一言で謎といってもいろいろある。

おんだりく 宮城県出身。『夜のピクニック』で本屋大賞、 『蜜蜂と遠雷』で直木賞。最新刊は『終りなき夜に生れつく』。ほか人気作多数。©鈴木七絵/文藝春秋

『ミステリ・オペラ』は「オペラ三部作」の第一作で、この大長編で扱われているのは日本の昭和史そのもの。まるごと歴史の謎を解くという壮大な試みである。大小さまざまな謎がこれでもかと詰め込まれており、さながら謎のデパートだ(古い言い回しですが)。

 打って変わって『新世界より』は、異様な世界での異様な物語が息詰まる迫力で描かれるのだが、本質的な謎は「いったいなぜ、このような異様な世界になったのか」だ。こちらもスケールのでっかい大長編だが、こういう謎解きもあるのか、と目ウロコの一作。

 最も端正な本格ミステリなのは、『キングを探せ』だろう。あくまでもロジカルに、どこまでも考え抜かれたミステリである。面白いのは、すべての事件が終わってから謎解きをするのではなく、事件が現在進行形で、状況がどんどん変わっていくところ。状況が変わると謎解きの前提も変わるわけで、前提が変わると結果はどうなるのか、をきっちり描き切った、実に端正なミステリである。

 そこへいくと、『写楽 閉じた国の幻』は、役者の大首絵で有名な謎の絵師、写楽の正体に迫った謎解きである。これまでも、写楽をテーマにしたミステリは多く書かれてきたけれども、今のところ、私が最も納得させられた説である。続編があるという話もあるのだが、どうなんでしょう、島田先生?

 残念ながら数年前に亡くなった連城三紀彦は、世間的には『恋文』などの恋愛小説で認識されているのかもしれないけれど、ミステリ的にはアクロバティックなトリックを繰り出す魔術師として認識されている。『小さな異邦人』は没後に編まれた短編集だが、魔術師の面目躍如の、凄まじい傑作集である。私が連城三紀彦を凄いと思うのは、普通のミステリ作家なら、生涯一作書けるか書けないかという誘拐モノの傑作を幾つも書いているところだ。この『小さな異邦人』にも「まだこんな手があったのか」という驚愕モノの誘拐ミステリが入っている。

 海外編も負けてはいない。

 2000年代、世界で重量級のミステリがさまざまヒットしたが、その中で私が個人的に気に入ったのが『ピルグリム』。テロの準備を進めていく過程を詳細に描いて、一行たりとも無駄な部分がない。この過程を追うだけでも非常にスリリングなのだが、あいだに挟まる殺人事件の部分が本格ミステリ魂をくすぐるのである。この組み合わせ、ミステリでは意外に珍しいので、ご堪能あれ。

 もはや古典になりつつある『ダ・ヴィンチ・コード』は、やはりダン・ブラウンの中でも破格の面白さ。題材の新鮮さ、けれんの利いた展開、伝奇モノとしては外せません。こういう図像学的ミステリのフォロワーを多く生み出したという点でも功労あり。

 コンスタントにハイレベルのミステリを生産し続けているという点で、現在ジェフリー・ディーヴァーはダントツではないだろうか。今回はリンカーン・ライムシリーズではなく、ほぼノンシリーズの短編集『クリスマス・プレゼント』を選んだ。これまた、傑作ぞろいであぜんとさせられる短編集である。どんでん返しの嵐で、あまりの密度の高さに驚くのを通り越してあきれること請け合い。

 ちょっと毛色の変わったところでは、同じ短編集でも全く趣の異なる『犯罪』を。初めて読んだ時は衝撃で、何冊も買っていろんな人に送り付けた記憶がある。月並みな言い方だが、人間の存在そのものが「謎」だと改めて実感させられずにはいられない。

『特捜部Q』は、シリーズモノの多さについていけないとお嘆きのあなたに、「今ならまだ間に合う!」という点でもお薦め。登場するキャラクターは近年のシリーズものの中でも相当にヘン。警察小説としても面白いのはもちろん、彼らに出会えるだけでも楽しいシリーズなのでぜひご一読を。
 

恩田陸さんが選んだ10冊

 本企画は実書店とコラボ中です。全国約四十店舗にて恩田陸さん「作家の本棚」が展開されています。

オール讀物 2017年 03 月号

文藝春秋
2017年2月22日 発売

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