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阿川佐和子のこの人に会いたい――松本伊代(タレント) 後編

genre : エンタメ, 芸能

前編より続く)

ようやく3カ月目に入ったころ、話せるように。

阿川 教育?

松本 新婚当初はヒロミさんに「今日はなんの仕事なの、どこに行くの?」ってしつこく聞いてたんですね。そうしたら「そんなのマネージャーさんに聞けば」って。夜出かけるのも「いつもの決まったメンバーだし、僕のことが信用できないの?」と返されて。

阿川 それで納得したんですか?

松本 すぐ納得しちゃいました。たしかにそのときのヒロミさんってレギュラーの番組しかやってないので、何曜日はこの番組の収録というのが大体決まっているんですね。だから「何かあったら、マネージャーさんにご連絡すればいいんですね」って(笑)。

阿川 でも、夜出かけて夜中になっても帰ってこないときもあるでしょう?

松本 そんなの、いっぱいあります。泥酔して道で倒れたりしてないかなとか、心配の方が頭に浮かんじゃうんですよね。だから遅いときは連絡してってお願いしたんですけど、長くは続かないし、麻雀してるときなんかは朝までになりますし……。

松本伊代 ©文藝春秋

阿川 徹夜麻雀ね。他にも趣味が多彩だしねえ。

松本 そうですね。深夜まで用事をしていても朝9時くらいには「こんなに寝てたらダメだな」って活動しだす人なので(笑)。

阿川 じゃ、育児はお風呂以外、全部妻任せってこと? 不満が爆発したりしなかったんですか?

松本 時々はしてたかもしれないですけど、あんまり言うと喧嘩になっちゃうから。喧嘩すると、ヒロミさんは何も喋らなくなるんです。

阿川 家の中で?

松本 はい。もう全然口きかないという感じになっちゃう。それが嫌だから、喧嘩したくないし、したとしても私が謝りつづけます。なんで私が謝らなくちゃいけないの、と思うときもありますけど、やっぱり喋ってくれないのは辛いから……。

阿川 最近でも喧嘩はあるんですか?

松本 去年ありましたよ。口をきかない時期が2、3カ月くらい続きまして。

阿川 2、3カ月!? 2、3日程度の話かと思った(笑)。

松本 (きっぱりと)2カ月はありました。原因は、塩と砂糖の間違い(笑)。キッチンにヒロミさんが買った新しい調味料用の瓶がいくつか置いてあって、1個にはちゃんとお塩が入ってたんです。「あ、これ便利」と思ってその一つにグラニュー糖を入れちゃったんですね。その日の夜、お肉を買ってきて、パパが「俺が焼くよ」と言って焼いてくれたんですけど、ヒロミさんに「この瓶にグラニュー糖を入れたよ」と伝えるのをすっかり忘れてて……。

阿川 フフフ(笑)。

松本 食べてみたらヒロミさんが「何か甘いね」と言ってて。ちょっと古い醤油も使ってたので、「醤油が濃厚になってて、甘くなったのかな」くらいに私は思ってたんですけど……。

阿川 たまり醤油みたいになったんじゃないかと。

松本 そうです。「私はこのくらいの甘さでもいいと思うよ」なんて返事してたんですけど、半分くらい食べたときに「あっ!」って思い出しちゃって(笑)。言うべきか迷ったんですけど、あまりにも不機嫌になってるし、ここは正直に言おうと。

阿川 意を決したんですね。それで?

松本 「そういえばさっき、瓶にグラニュー糖入れたんだけど、それかな~」なんて言った途端、カッチャーンとお箸を置く音が聞こえて。「こんなことが続くんだったら、僕はママと暮らしていく自信がない」って。長男もリビングにいたんですけど、まずい空気を察してか聞こえてないふりをしてて……。あ、ヤバイ、これは離婚だって思いました。

阿川 そんなことで!?

松本 それくらいのヒロミさんのテンションだったんです。その場では私も言葉が出せないくらいの緊張感があって、翌日から「ほんとにごめんなさい」と謝り続けたんですけど、全く相手にされず……。

阿川 それが、2、3カ月も続いたんですか?

松本 はい。「今後はちゃんと生きていきます」と宣言したり。スタッフも心配して絶対に間違えないお塩入れと砂糖入れを買ってくれたので、それを見せたりして、ようやく3カ月目に入ったころに話せるようになりました。

阿川 塩砂糖事件で3カ月……。逆に伊代さんがヒロミさんに腹を立てることはないんですか?

松本 ほぼないです。基本ヒロミさんの言ってることが正しいし、ヒロミさんがいないと生きていけないので。

阿川 生きていけない!?

松本 生きていけないです。

阿川 たとえばどういうところで?

松本 ゴミ出しの日がいつなのかというのも私あまり分かってないし。

阿川 ゴ、ゴミ出し?(笑)

松本 ヒロミさんはちゃんと分かってるから「今日は燃えるゴミの日だぞ」とか「ママ、今日はそれは出しちゃダメだぞ」って教えてくれる。私が家を散らかして、そのまま家を出ても綺麗に掃除してくれたり。

阿川 えーと、精神的な部分とかで支えられているとかは……?

松本 あります。一番の味方というか、なんでもヒロミさんに相談しますし。

阿川 具体的に、どんなことを相談するんですか?

松本 たとえば結婚したてのころ、『センチメンタル・ジャーニー』を歌番組じゃなくて、バラエティーで歌ってほしいというオファーがあるんだけどどう思う、って聞くと、「そんなオイシイ仕事ないじゃない」とか。まったく違った角度からの考え方を聞いて、アイドルを捨て切れなかった自分を反省したこともありました。

阿川 アイドルを捨て切れないっていうのは、どういうこと?

松本 たとえば芸人さんが入って欲しくないところで話に割り込んだりとかしてました。昔、ヒロミさんから「バラエティーなめんなよ」と怒られたこともありましたね。

阿川 ああ、つい自分中心に考えちゃうのね。最近でもお仕事でアドバイスを受けることはありますか?

松本 去年の35周年記念コンサートでもそうだったんですけど、ダメ出しがすごかったです(笑)。「ママ、トークの1分間を何だと思ってるんだ。もっと大事に喋りなさい」って。あとはコンサート中つい「ああ、もう年も取っちゃって」なんてMCで喋っちゃうんですけど、「松田聖子さんがコンサート中にそんなこと言うか?」と。「アイドルに戻るのなら、みんなも一緒にあのころに戻ろうよというスタンスでいかないとダメだ」って。

阿川 プロに徹しなさいと。その日はたしかヒロミさんもステージに上がられたんですよね。

松本 そうなんです。お客様に対しても「君たちも、いいかげんな応援してないで、立つなら立つ」ってダメ出ししてました(笑)。

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